眉尻を下げた司祭様は、ひどく言いにくそうに口籠った。

「え?」

 司祭様のお言葉の意味が理解できなくて、私が呆けたままの顔で固まっていると、司祭様の横でフリューゲルが、まだ見慣れない背中の大きな羽をパサリと開いた。それに気を取られ、彼の方へ視線を向けると、じっと見つめてくるフリューゲルの視線と重なった。

「本来、学びを行うのは、僕だったんだよ」
「フリューゲルが?」
「そう。『時、来たりしとき、片翼を学ばせよ』の片翼は、僕のことを指していたんだ。そして、『時、来たりしとき、片翼を羽ばたかせよ』の片翼は、きみのことだよ。アーラ」
「私?」
「うん。大樹様(リン・カ・ネーション)のお言葉は、僕の成長と、アーラの昇華を意味していたんだ」
「昇華? 私の昇華ってどういうこと?」

 今や泣きそうになりながら私は、彼に答えを求めた。双子の片割れにも哀しみの影が落ちている。

「アーラは、僕が天界へと連れてきてしまった、白野つばさの《《ココロノカケラなんだ》》」
「私が、ココロノカケラ?」

 自分の顔を指差しながら、私はこれでもかと目を見開いた。きっと今の私はこれまでで一番間抜けな顔をしているに違いない。でも仕方がない。だって、フリューゲルの悲しそうな、それでいて真剣そのものの眼差しを真っ直ぐに受ければ、それが嘘や冗談であるはずないことくらい分かってしまう。でも、だからこそ私はその話をどうやって受け止めれば良いのか分からない。

「あの時、僕たちが母さんのお腹の中で別れた時に、僕はきみの流した涙を手にしていた。それにきみの魂の一部が宿ったんだ」
「そんな事って……」

 信じられないと首を振る私に、フリューゲルは淡々と話しかける。

「あり得ないことではないよ。まぁ、通常ココロノカケラはこちらの世界に未練があって留まることの方が多いけど。きみも実際にココロノカケラに会っているんだから、その存在は信じられるだろ?」

 フリューゲルの言葉で、学校の花壇で出会ったまだ幼い少女の顔が脳裏に浮かんだ。

「だから、あなたはあの時、私とあの子が惹き合ったと言ったのね。フリューゲルは、私がココロノカケラだと知っていたから」
「うん。僕と司祭様は、僕たちの記憶の意味を考えたんだ。そして、アーラが本体である白野つばさから分かれてしまった彼女の一部であると結論付けた」
「アーラが他のNoel(ノエル)と違い、下界に強く惹かれていたのは、きっと本体である白野つばさの心が貴方を呼んでいたからなのでしょう」