「確かにこの家にはあなたしか子供はいないわ。でも、あなたは双子だったのよ」
「ごめん。話がよく分からないよ。お母さん。私が双子だっていうなら、もう一人の子はどこにいるの?」
「さあ。どこにいるのかしらね。空の上に居てくれるといいのだけれど……」

 そう言って、お母さんは天井を見上げた。その眼は、はるか遠くを見つめている。

「それって。その子は……」
「うん。生まれる前に死んじゃったわ」
「うそ……」

 驚きが小さく漏れる。あまりのことに私の口からは、それ以上の言葉が出てこなかった。

「あなたもね。一時危ない状態だったのよ。でも、なんとか持ち堪えてくれて……」

 お母さんの声はいつの間にか震えていた。

「お医者さんの話ではね。お母さんの産道は、あなたたちが通るには、少し狭かったみたいなの。それで、あなたたちを疲れさせちゃったみたいなの」

 震える声で話を続けるお母さんの声を聞きながら、いつの間にか、私の意識は別のところにあった。

 ぷかぷかと暗い水の中を漂う。

 暗闇の中、必死で手を伸ばし誰かの手を探す。いつもなら、すぐそばにあるはずなのに。でもどんなに手を伸ばしても、触れることができない。声を上げて泣きそうになった。その時、暗い水の中に一筋の光が差してきた。

 光の向こうから、呼ばれた。早くおいでと。優しい声が、私のことを呼んでいる。私は今すぐに声の元へ行きたい。でも、一人ではいけない。私はもう一度手を伸ばす。

 必死で手を伸ばす私の耳に、いつもそばで聞いていた声が聞こえた。大丈夫。心配しないで。僕はいつだって君のそばにいるよと。その声に押されるようにして、私の体は光の海流に乗る。いつもの声が遠退いていくような気がした。

 待ってと、力の限り叫ぼうとしたその時、私の周りがとても眩しくなった。眩しくて眩しくて、私は目をギュッと瞑ったまま叫んだ。神様、お願い。私たちを引き離さないでと。

「つばさ。ねぇ。つばさ。大丈夫?」

 お母さんの声で我に返る。

 今の景色は一体何だったのだろうか。不思議な感覚にとらわれる。私は、今の場面に遭遇したことがあるような気がした。でも、下界へ来て数カ月。こんな出来事には遭遇していないはずなのだが。

 ぼんやりとする私に、再度お母さんの声が降りかかる。

「ねぇ、つばさ。本当に大丈夫?」
「ああ。うん。ごめん。ちょっとびっくりしちゃって」

 曖昧な笑みを浮かべて答えると、お母さんは、ホッとしたように少し肩を下げた。