彼の背中が見えなくなった頃、パンっと手を打った緑が、真剣な面持ちで私の顔を覗いてきた。
「さてと。雨だけど、つばさちゃんはこの後も部活するの?」
「ううん。今日やろうと思ってたことはできたし。この雨じゃ、水やりも必要ないからね。今日は、もう終わりにする」
私は首を振って答える。私の答えに、一つ頷いた緑は、私の手を取った。
「じゃあさ、私と少しお話ししようよ」
「え? うん。それは構わないけど、でも、緑ちゃん。司書先生のお手伝いの途中なんじゃないの?」
戸惑う私を余所に、緑は私の手を引き図書館の中へと入っていく。
入り口の扉を潜ると、空調が効いていて雨に濡れた体には少し寒いくらいだった。思わずブルリと身震いをして、手にしていたタオルを肩に羽織る。
「そっか。濡れてるから、寒いよね。ちょっとここで待ってて」
緑は、寒さに肩を抱く私を見ると、一言言い置いて、司書室と書かれた扉へ駆けていった。
一人残された私は、手持ち無沙汰に何気なく視線を彷徨わせる。
晴れの日には、燦燦と光を取り込むだろう天窓には、たくさんの雨粒が打ち付けていて、今はあまり明かり取りの役目を果たしていない。暗く切り取られたようなそれを見ていたら、余計に寒くなったような気がして、そこから視線を外した。
天窓から視線を外すと、壁の一部を利用して、展示してあるいくつもの雑誌が目についた。ゆっくりと雑誌を見るためのソファーもある。だが、こんな濡れた状態では、ソファーに座ることも、雑誌を手に取ることも憚られる。
今年度から専任司書が常駐し、常に開館されるようになったらしいこの図書館は、その専任司書によって、居心地の良い空間作りがされている。この図書館の居心地をいち早く気に入った緑は、有志図書委員として、専任司書を度々手伝いに来ているようだった。
「つばさちゃん、こっち~」
司書室からひょっこりと顔を出した緑に呼ばれ、司書室へと入る。
司書室では、赤いエプロンの上に薄手のカーディガンを羽織り、大きめのウェーブのかかった髪を高い位置で一括りにした幼顔の司書が、心配そうにこちらを見ていた。
「あらまぁ。本当にずぶ濡れね。葉山さん、早く乾かしてあげて。私は、温かいお茶でも入れるわ。あぁ、その前に……」
そう言って、司書は、緑にドライヤーを手渡すと、パタパタと司書室を出ていった。
どうしたのだろうと、その背中を目で追っていると、司書は閲覧スペースへと向かっていく。
「さてと。雨だけど、つばさちゃんはこの後も部活するの?」
「ううん。今日やろうと思ってたことはできたし。この雨じゃ、水やりも必要ないからね。今日は、もう終わりにする」
私は首を振って答える。私の答えに、一つ頷いた緑は、私の手を取った。
「じゃあさ、私と少しお話ししようよ」
「え? うん。それは構わないけど、でも、緑ちゃん。司書先生のお手伝いの途中なんじゃないの?」
戸惑う私を余所に、緑は私の手を引き図書館の中へと入っていく。
入り口の扉を潜ると、空調が効いていて雨に濡れた体には少し寒いくらいだった。思わずブルリと身震いをして、手にしていたタオルを肩に羽織る。
「そっか。濡れてるから、寒いよね。ちょっとここで待ってて」
緑は、寒さに肩を抱く私を見ると、一言言い置いて、司書室と書かれた扉へ駆けていった。
一人残された私は、手持ち無沙汰に何気なく視線を彷徨わせる。
晴れの日には、燦燦と光を取り込むだろう天窓には、たくさんの雨粒が打ち付けていて、今はあまり明かり取りの役目を果たしていない。暗く切り取られたようなそれを見ていたら、余計に寒くなったような気がして、そこから視線を外した。
天窓から視線を外すと、壁の一部を利用して、展示してあるいくつもの雑誌が目についた。ゆっくりと雑誌を見るためのソファーもある。だが、こんな濡れた状態では、ソファーに座ることも、雑誌を手に取ることも憚られる。
今年度から専任司書が常駐し、常に開館されるようになったらしいこの図書館は、その専任司書によって、居心地の良い空間作りがされている。この図書館の居心地をいち早く気に入った緑は、有志図書委員として、専任司書を度々手伝いに来ているようだった。
「つばさちゃん、こっち~」
司書室からひょっこりと顔を出した緑に呼ばれ、司書室へと入る。
司書室では、赤いエプロンの上に薄手のカーディガンを羽織り、大きめのウェーブのかかった髪を高い位置で一括りにした幼顔の司書が、心配そうにこちらを見ていた。
「あらまぁ。本当にずぶ濡れね。葉山さん、早く乾かしてあげて。私は、温かいお茶でも入れるわ。あぁ、その前に……」
そう言って、司書は、緑にドライヤーを手渡すと、パタパタと司書室を出ていった。
どうしたのだろうと、その背中を目で追っていると、司書は閲覧スペースへと向かっていく。



