着替えを終えた真生のみえる範囲の体には歯型とキスマークが至る所についていた。

 (着替えるだけだったはずだ。それなのに、なんでこうなった? まあ血を吸われても大丈夫みたいだからいいか)

 そういう問題じゃないように思いますよ。

 「マオウ様……素敵ですう。また血を吸いたくなりましたわ」
 「い、いや……もう駄目だ! 書斎に行くんだろ?」
 「えー残念ですう。そうですね……じゃあ、()()()()()()()()()にしますわ」

 それを聞き真生は苦笑した。

 「そ、そうだな」――……――(怖い……)
 「それでは行きましょう!」

 そう言いライゼアは部屋から通路へでる。
 そのあとを真生は追いかけた。

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 通路に出た真生はライゼアの後ろを歩きながら周囲をみる。
 両端の方にある台の上には花瓶が置かれていた。その花瓶には色々な花が活けてある。

 「そういえば、この城に住んでるのってライゼアだけなのか?」
 「いえ、他にもいますう。ですが今は別室で休んでますわ。アタシは偶々魔王さまの玉座を掃除していましたの」
 「そういう事か。あの場に居たのがライゼアで良かった」

 そう言われライゼアは嬉しさのあまり顔を赤らめ立ちどまり真生の方へ向きを変えた。

 「ああ……マオウ様から、お褒め頂けるなんて嬉しいですわぁ」
 「褒め……そ、そうか。じゃあ先に進もう」

 これ以上言わない方がいいと真生は思い話を切り替える。

 「そうですわね」

 再び正面を向きライゼアは歩き出した。

 (書斎に着くまでは警戒していた方がいいよな。何が起こるか分からないし)

 そうこう真生が考えているとライゼアは書斎のある扉の前で立ちどまる。そして扉を開けるとライゼアは真生に中に入るように促した。
 それをみて真生は部屋の中に入る。
 そのあとをライゼアが追い部屋の中へ向かい、そのあと扉を閉めた。

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 書斎に入るなり真生は固まる。そう虎の獣人のような魔族が机の前に立っていたからだ。

 (嫌な予感しかしないんだが)

 虎の獣人のような魔族は真生とライゼアが入って来たことに気づき振り返った。そして真生の顔をみるなり不機嫌な表情を浮かべる。

 この虎の獣人のような魔族はダランカル・リオルド。タイガーデビルと云う種族だ。
 因みにタイガーデビルは、この世界だけの魔種族で見た目は虎の耳の間ぐらいに小さな角が生えている。まあ獣人が魔族になったような感じだ。

 「ライゼア、コイツは何もんだ? なんで魔王さまの服を着てやがる」
 「あらあ~ダランカル。また勝手に魔王さまの書斎に入っていたのね」
 「……お前、本当にライゼアなのか?」

 余りにライゼアの話し方と雰囲気が変ってしまいダランカルは警戒した。

 「ええ……勿論よ。マオウ様がアタシを変えたのですわ」
 「おい! 今……魔王さまって言ったのか?」
 「そうよ……やはり魔王さまは偉大だったわ。こんなアタシの何もかもを変えてしまったのですもの」

 そう言いながらライゼアは掌を真生に向ける。
 それを聞き真生の顔は青ざめた。

 (どうする? ダランカルってヤツの顔をみる限り、かなり怒ってるよな)

 そう思い真生は、ユックリとライゼアの方へ振り返り視線を向ける。
 そんなライゼアは悪ぶることなく満面の笑みを浮かべていた。