ユックリと歩き真生は、オルクの部屋を隅々までみながら考えていた。

 (……これと云って不審な物は見当たらない。どんな方法で殺したんだ? 探偵小説なんかだったら、ここで都合よく狂気がみつかるんだけどなぁ)

 そう思いながら周囲を見回す。

 「ハァー……流石に、そんな都合よくある訳ないか」

 天井を見上げ真生は涙目になっていた。

 (そもそも、なんで探偵まがいのことをしてんだ? トリックが解けるほどの知能なんて俺にはないぞ)

 そう思い苦笑すると肩を落とし下を向いてしまう。

 (そう思ってもな……どうしても気になるんだよなぁ)

 そう自問自答を繰り返し再びオルクの遺体があった場所へ向かおうと歩きだした。

 「フッ……復活した魔王って云うのは、お前か?」

 何処からともなく声が聞こえてくる。

 「誰だ!?」

 声がした後ろを真生は振り返った。

 「……⁇」

 だが、そこには誰も居ない。

 「その通りだ。それよりも何者なんだ? 姿をみせろ!?」

 真生は見据える先に異様な気配を感じている。

 「フンッ、みせる訳ないだろ? それにしても……だいぶ警備が緩くなったもんだ。他国のオレに侵入されるんだからな」
 「他国? 魔種族の何処の国だ?」
 「フンッ……言う訳ないだろ」

 そう言われ真生は声がする方へ気配を探りながら、ユックリと近づいていた。

 「お前がオルクを殺したのか?」
 「それはない。そもそも、あんな豚を殺してもオレにとってなんの得もないし意味をなさないからな」
 「じゃあ、なんでここにいる? それに……さっきまでは、お前の気配なんて感じなかったぞ」

 そう問いかけると声の主は高笑いをしたあと話し始める。

 「ハハッ……当然だ。気配を消してたからな」
 「なるほど、そういう事か。それはそうと……何時から、ここにいた?」
 「お前たちが入ってくる前からだ。まあ聞きたいことは分かっている。犯人もな。只これは言うつもりはない。我が国の問題だからな」

 なるほどと思い真生は納得した。
 姿を消し話している男は他国の者。
 そして、この者の発言を察するにオルクを殺した者は他国の者ってことだ。それに、この者はオルクを殺した犯人を知っている。

 「なるほど……お前の国の者がやったってことか。それで……お前は、ソイツをどうするつもりだ」
 「どうもするつもりはない。まあ強いて言えば厄介な芽を摘んでくれた褒美ぐらいはやってもいいと思ってるがな」
 「……流石は魔族だ!」

 言い放ったと同時に真生は目の前に居るだろう者へと飛びかかった。が、スカッと感触はなくそのまま床に顔から倒れる。

 「…………クッ、イテエー!!」

 痛い顔を摩りながら真生は起き上がり、ユックリと立った。
 それをみて声の主は、ケラケラと笑っている。

 「本当に、お前が魔王なのか? どうみても只のドンくさい人間にしかみえんぞ。それとも本当に、この国は弱い者の集まりになったのか?」
 「クソッ! いい加減にしろよ」

 自分のことでさえ我慢するのがヤットの真生は仲間を馬鹿にされ怒りを堪えられなくなっていた。そのため目の前に両手を翳している。

 《スキル【掃除機】レベル3 幻術吸引!!》

 そう言い放ち翳していた両手を斜め上に掲げた。すると魔法陣と共に、パッと空間に亀裂が入り大きなホースの付いた床用ノズルが現れる。
 その大きな床用ノズルは「ウイィィイイイーン……」と音を立て声の主の幻術を吸い取り始めた。
 声の主が、それに反応する気配はないようだ。
 それよりも「これは面白い能力だ」と言い余裕らしく大笑いをしている。
 しかし声の主にかけられた幻術は解かれ姿が現れてきた。
 その姿……いや、そこには翼を生やした呪符が浮いているだけである。

 「お札??」
 「…………フッ、よく幻術を解いたな。それに、お前の能力は面白い。どうだ? こんなどうしようもない所など捨てて我が国にくる気はないか」
 「意味が理解できない。身代わりを忍ばせてしか何もできないヤツのいいなりになると思ってるのか? それに、お前の下で働く気なんかないからな!」

 そう言い放ち真生は宙に浮く呪符を掴もうとした。
 だけど呪符は、サッと真生の手をすり抜けて持つことができない。

 「言ってくれるじゃないか。まあいいオレの誘いを断ったことを後悔させてやるよ。だが今すぐじゃない……お前がオレの下に辿り着くことができたあとにだ」

 そう言い声の主は高笑いをしている。

 「ああ……それは、コッチの台詞だ。何れ魔王に覚醒して、お前の国を侵略してやるよ」

 この時、真生は確信していた。この声の主は他の四つある国の何れかに現れた魔王だということをだ。
 そして、この国が一番下だという事で下調べに来たという事。只そんな中、自国の者がオルクを殺したという訳である。

 「ハハハハハ……覚醒をしていないだと、それは面白い。それで、オレの幻術を破ったか。覚醒した……お前と戦えるのが楽しみだ」

 言い放ったと共に呪符は黒い炎に包まれ燃えて焼かれ消えた。

 「これは……のんびりなんてしている暇なんかないな」

 強くなって早く魔王に覚醒しなければと思い真生は遠くを無作為にみつめる。
 そして明確にみえてきた目標に真生はやる気が増し燃えていたのだった。