ここはダランカルの仕事部屋兼、自室だ。因みに隣は寝室である。
 周囲の至る所には体を鍛える道具などが置かれていた。
 まあ本棚もあるが必要最低限しか置かれていないようだ。
 机上に置かれている物は本や書類よりも鉛の塊のような物が載っている。
 その机に寄りかかるように座りダランカルは真剣な顔で紙をみていた。

 (今日からだ。昨日、魔王さまから許可を得たからな。そういえば、この件が済んだら話すことあるって言っていた。確か女神が、どうのって)

 少し考えたあと、フゥーっと息を吐く。

 「まあ……考えても分からねえし。今は、コッチが優先だ」

 そう言い扉の方へ歩き出した。その後、扉を開けて通路側に出ると魔王の座を狙う一人目の所へと向かう。

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 ドウナーアル城の南東側の低い大地には魔種族たちの集落ディテがあり各種族ごとに境界を設け暮らしていた。
 境界を設けている訳は言うまでもなく住む環境、思考の違い、敵対関係などなどがあるからである。
 これは前魔王が自分の目の届く所に自国民をおくために、このような集落をつくったのだ。
 それ以前は何処に自国民が居るか分からず把握困難であった。まあ、ここまでにするには結構な苦労をしたようだ。
 それだけ前魔王は優秀だったという事である。

 そんなディテ集落にダランカルは来ていた。

 「ここにくるのは久しぶりだ」

 そう言い地図をみながら歩みを進める。

 (間違ってもキメラの領土に入らねえようにしねえとな。ヤツラとは相性が悪い……ここで喧嘩なんかしたら厄介だ)

 そう思考を巡らせながら目的の場所を目指した。

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 場所は真生の書斎に移る。机に向かい真生は椅子に腰かけている。その隣にはライゼアが何時ものように本を読み上げていた。
 反対側にはアクスファハンが居て色々と説明をしている。机の前にはナシェルが居て話を聞きながら真生をみていた。

 「んー……そうなると、ここまで治安が良くなったのは前の魔王のお陰ってことか」

 机上に置かれる本を真生はみつめている。

 「ええ……厳しい方でしたが誰よりも、この国のことを考えて改革をされておりました」

 真生の横でアクスファハンは昔のことを懐かしく思い返していた。

 「アクスファハン、お前も昔のことを知っているんだったな」
 「はい、まだ私は国民の一人に過ぎませんでした。前魔王さまのように強くて賢い国民を思える者になれたらと憧れたものです」
 「じゃあ、それが魔王になりたかった理由なのか?」

 そう問われアクスファハンは一瞬だけ黙ったが口を開き話し始める。

 「その通りと言いたいのですが……その頃は、そこまでの野心など微塵もありませんでした」
 「そうなると前魔王が亡くなってからか?」
 「そうなります。とは言いましても、ここ最近……約十年ぐらいなのです」

 気まずそうな表情でアクスファハンは俯き無作為にみていた。

 「まあ……何があったのか分からないが、この話を詳しく聞くつもりはない。それよりも今の俺は、この世界のこと……特に魔種族について把握しないといけない。それに、この国のこともな」

 空気をよんでか否か真生は話を変える。

 「微力ではありますが……この私に、なんなりと聞いて頂ければと」
 「そうだなぁ……じゃあ、アクスファハンの種族について教えてくれないか?」
 「はて? なぜ我が種族などに興味を?」

 不思議に思いアクスファハンは首を傾げた。

 「お前の種族デーモンブルーガストって、悪魔なのか? それに、ガストって【突風】の意味じゃないのかと思ってな」
 「突風?? ガストは、そのような意味合いじゃありません。悪魔系の魔種族なのは間違いありませんが」
 「そうか……じゃあ【ガスト】に意味はないんだな?」

 その問いかけにアクスファハンは首を横に振る。

 「意味はありますよ。この世界での【ガスト】とは【煙】のことを云うのです」
 「煙か……でも、なんでそんな名前が付いている?」
 「あーそういう事なのですね。それならばみて頂いた方がいいかと思われます」

 そう言いアクスファハンは真生から離れて後ろに下がった。そして、パチンと指を鳴らし「ガスト化」と言い放つ。
 するとアクスファハンの体が、ピカッと光ったあと姿を煙へと変える。

 「なるほど……只、煙に変わるだけなのか?」
 「いえ、それだけではありません。敵を欺き攻撃することも可能です」

 アクスファハンにピッタリの能力だと思い真生は納得した。
 その後、アクスファハンは元の姿に戻る。
 そして真生は、その後もアクスファハンから色々聞き出していた。