……――「うわぁぁぁぁぁぁぁ……」と云う絶叫と共に真生は飛び起きる。と同時に上体を起こしたままで、キョロキョロ辺りを見回した。

 「マオウ様、大丈夫ですう?」
 「どうしたのじゃ!」

 絶叫と共に目覚めたためライゼアとナシェルは心配になり真生のそばにくる。

 「戻ってきたか」
 「何を言っているのですう?」

 そう問われ真生は言っていいのか悩んだ。だがライゼアとナシェルなら大丈夫だろうと思い女神とのことを話した。

 「じゃあマオウ様は人間の領域をも支配するのですね。それは凄いことですう」
 「いや支配をするって程じゃない。魔族の領域は支配するかもしれない。だけど人間の領域は別の方法をとろうと思っているんだ」
 「支配せずに人間領域の治安を良くするなんてできるとも思えぬのじゃ」

 怪訝に思いナシェルは首を傾げる。

 「できるか、できないかは分からない。まあ場合に寄っては戦闘になるかもしれないけどな。それでも、できるなら魔族が脅威と思わせたくないんだ」
 「魔族を脅威と思わせておいた方が人間は襲ってこないと思うのですう」
 「それじゃ駄目だ。もし人間と共存できるとしたら、どう思う?」

 そう問われライゼアとナシェルは考えた。

 「……考えてもいいとは思えぬのじゃが」
 「そうですう。それに今は、お互いに干渉していないお陰で平穏ですし」

 それを聞き真生は首を横に振る。

 「平穏、か。でも勘違いされたままでいいのか? 魔族は悪い者ばかりだってな」
 「いまいち分からないのじゃ。これが当たり前じゃと思っていたからのう」
 「今更、魔族が悪さをしないと言っても人間は納得しないと思いますう」

 そう言いライゼアとナシェルは眉をハの字にし困った表情で真生をみた。

 (やっぱり難しいのか……魔族と人間が共存するのは? だけど、やらないとならない。諦めたら、ここで終わる。
 まあ……それは今すぐじゃないし、どうにかなるよな)

 そう考え真生は目の前の二人を見据える。

 「そうだな。だが、やってみないと分からない……そうじゃないか?」
 「そうですね……確かに今まで、そんな考えをする者なんていませんでした。ですがマオウ様なら……もしかしたら、それを可能にしてくれる気もしますう」
 「うむ、ウチもそう思うのじゃ」

 そう言うもライゼアとナシェルは仮に人間と共存できたとして変化があるように思えずにいた。

 「ああ……まあ、いいか。それと、このことは……あとでダランカルを交えて詳しく話し合いたいと思っている。それに今は他にやることが山積みだからな」
 「そうですう……それに、それが終わってからの方がいいかもしれません」
 「今は人間のことよりも、この城の者たちに魔王さまを認めさせる方が先なのじゃ」

 そう言われ真生は、コクッと頷き真剣な顔でライゼアとナシェルを順にみる。

 「さて、また本でも読むか。まだ覚えないといけないことが沢山だからな」

 立ち上がり真生は机の方へ向かい歩き出した。そのあとをライゼアとナシェルが追いかける。
 机までくると真生は椅子に座った。
 ライゼアは真生の横に立ち本を持つと広げながら机上におく。
 片やナシェルは机の前からその様子をみている。
 その後ライゼアが本を読み真生は机上に置いてある紙に必要なことを書き込んでいた。

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 書斎の通路側では、アクスファハンが扉の脇に立ち周囲を警戒していた。

 (まさか、この私が……このような明らかに下っ端のやるようなことをするとは思っていませんでした。
 ですが、マオ様から信用して頂くためには通らないといけない道なのです。そう……耐えなければいけない)

 意外だが余程、真生のことを気にいっているようだ。まあ今の段階では、どう足掻いても真生の信頼を勝ち取れないだろう。
 余程、何かが起きて活躍しない限り無理だ。

 (マオ様は異世界から召喚された……いったい誰にでしょうか? わざわざ神が魔王にするために召喚するとも思えません。
 そうなると、この城の者でしょうか? まあ、そのことは恐らくマオ様も知っているのでしょうね。それに……それを知ったとしても私には関係ありませんし。
 それよりも、どうやってマオ様の御機嫌をとれるかを考えませんと)

 恐らくじゃなくても、こんな考えをしているうちは真生の信頼を得るなんて到底無理だろう。

 そしてアクスファハンは、その後も警備をしながら色々思考を巡らせていたのだった。