真生は悩んでいた。勇者には憧れがあったからだ。その勇者に自分がなれる。
 普通なら即この時点で勇者になると返事をする所だろう。
 だが真生の脳裏にはライゼア達のことが過り勇者になることを迷っていた。
 それに自分は魔王になるものだと思っていたから余計にだ。

 “勇者には興味がある。だが……魔王じゃ駄目なのか?”
 “それは構わないよ。但し条件付きだけどね”
 “……条件付きか。ってことは俺に何かを、やらせたい。そういう事だろ?”

 コクッと頷きスペーリオルは、クスッと笑った。

 “その通りだよ。それさえ、やってくれれば僕は何も言わない”
 “何をさせようとしてる?”
 “君になら簡単なことさ。そう――……”

 そう言いスペーリオルは真生に何をさせようとしているのかを話し始める。

 “…………それが簡単だって? ふざけてるよな? 魔族と人間の管理だと……ふざけんなっ!! そもそも世界の管理をするのは女神の仕事だよな?”
 “そうだね。だけど、これが結構……難しいんだよねえ。それにさ、マオに聞くけど。なんで勇者と魔王が存在するか分かる?”

 そう問われ真生は思考を巡らせる。

 “勇者は悪い者を滅するために勇敢に立ち向かう者で魔王が魔族の王……人間にとって脅威の存在だ”
 “そうなるね。まあ人間は魔王を悪者と決めつけている。でも……それは遥か昔の魔王のせいでもあるんだ”
 “なるほど……そうなると、その汚名を消せってことか?”

 そう真生が聞くとスペーリオルは少し考えたあと口を開いた。

 “それもあるけど、それだけじゃないよ。それにマオが言っていることはあってるけど聞きたいことと違ってる”
 “どういう事だ?”
 “僕が聞いているのは勇者と魔王が双方ともに、なんで存在して居るかだよ”

 そう問われ真生は悩んだ。勇者は悪を滅する者。魔王は悪で驚異的存在だ。
 ふと、なんで魔王が悪で驚異的なんだと思い考える。
 そう勇者だって魔王を倒すぐらい強いだろう。それに勇者とは勇敢なる者と云うだけの称号で、その中に悪がいないのかとも思えたからだ。

 “ちょっと気になったんだが、どっちも悪だったらどうなる?”
 “それはあり得るよ。そうなると世界の治安が乱れるだろうね。それに、その逆もある。勇者と魔王が善ってパターンも”
 “そうか……じゃあ魔王が善でも変じゃない”

 コクッと頷きスペーリオルは“そうだよ”と応える。

 “俺にやらせようとしていることって世界の治安を護れってことか?”
 “そうだね。それをするのが勇者でも魔王でもいい。だからマオが魔王になっても問題ないってことさ”
 “フッ……面白い! 但し俺のやり方でいいよな?”

 真生は胸躍っていた。そう、あることを考えていたからだ。まあ、それはあとで分かるだろう。

 “それは任せるよ。それに女神にも干渉しちゃいけない領域があるからね。そのためマオに管理して欲しいって思ったんだ”
 “分かった……その条件のんだ!”
 “良かった。それじゃ契約しよう”

 その後、真生はスペーリオルの指示する通りにし契約を結んだ。と同時に電気が走ったような感覚に襲われる。

 “ハァハァ……なんなんだ! この激痛は?”

 その痛みは徐々に落ち着いてきた。

 “契約したって言っても強制的に僕と繋がったからね”
 “まあいいか……痛みは落ちついてきたし”
 “クスッ、じゃあ意識を元の体に戻すけど頼んだよ”

 そう言われ真生は“分かってる”と言う。
 それを聞きスペーリオルは、ニコッと笑みを浮かべた。
 その後、真生の意識は叫びと共に魔法陣の空間から消え元の体へと戻る。

 “頼んだよ、マオ。君なら成し遂げてくれると信じてるからね”

 そう言うとスペーリオルは、この場から消えた。