「そうでしたわ! 名乗っていませんでしたね。アタシはライゼア・ミミルクと申しますう」

 ニコッと満面の笑みを浮かべ、ライゼアは真生をみつめる。

 「あ、そうだった。俺の名は狩野(かりの)真生(まお)だ」
 「マオウ……ま、魔王さま!?」
 「いや、マオであってマオウじゃ」

 そう言い直すもライゼアの耳には入っていないようだ。

 「ああ……やはり、この魔王城で待っていた甲斐がありましたわ。こうして魔王さまの復活を目の当たりにできたのですから」
 「魔王城……復活って……」

 その後も自分は魔王じゃなく真生だと何度も説明する。だが、その言葉をライゼアは信用しなかった。

 「あくまでも魔王さまではないと? あーそういう事ですのね。勇者の目を欺くために……そうですよね、まだ復活して間もないですし」
 「いやだから……」
 「うんうん……分かっていますので大丈夫ですう。今のままでは勇者を向かい打てるほどの力がないからですよね?」

 そう言われ真生は、なんて返答しようかと困惑する。
 すると脳裏に【この状況の対処方法】と浮かび【聞きたい・自分でなんとかする】のように表示された。その横に【どうしますか?】と浮かび上がる。

 (……聞きたい、に決まってるよな?)

 そう真生が思うと反応して脳裏に【この状況の対処方法は――――……】と浮かび書き込まれていった。

 (結局は偽物魔王になるしか道がないって訳か……。それに本物が復活したら……ちょ、待てって……俺の力で倒せるのか?)

 そう考えていると真生の脳裏に【心配するべからず】と書き込まれる。そのあとに【貴方ならどうにかするでしょう】と表示された。
 それをみた真生は呆れた表情を浮かべる。

 「魔王様どうされたのですう?」

 心配になりライゼアは真生の顔を覗き込んだ。

 「いや、なんでもない。じゃあ……魔王マオでいい」
 「魔王マオウ様と呼べばいいのですね」
 「……あーうん、それでいいか。それで、これからどうするんだ?」

 そう問われライゼアは顎に人差し指をあて思考を巡らせる。

 「そうですねぇ……マオウ様の服を変えませんか?」
 「なんでだ?」
 「その服では魔王さまらしくないと思うのですう」

 真生はそう言われ自分の着ている服をみた。

 「別に魔王なんて思われなくてもいいんじゃないのか?」
 「いえ……駄目ですう。やはり魔王さまと云えば誰よりも高貴な正装の方が素敵だと思うの」
 「魔王の服って、そんなにいいのか?」

 ゲームやアニメに登場するような魔王のことを思い浮かべ真生は嫌だと思い顔を青くする。

 「勿論ですう……待っていてください。前魔王さまの着ていた素敵な服があったと思いますので」

 そう言うとライゼアは部屋を出て魔王が着ていた服を取りに向かう。

 (行ったか……今の内なら逃げられる)

 そう思い真生は逃げられそうな所を探した。
 すると脳裏に【諦めなさい。逃げ道はありません。このまま魔王になるのです。貴方なら良い魔王になれるでしょう】そう浮かび書き込まれる。

 (いい加減にしろ!! なんでお前に命令されなきゃならない。そもそも何者なんだよ)

 そう問うと脳裏に【何者か……今の貴方のレベルでは無の存在としか答えることができません】そう浮かび表示された。

 (レベルを上げれば教えるってことか……。そういう事なら仕方ない……魔王にでもなんでもなってやろうじゃないか!
 まあ元の世界に戻っても一人で何時も退屈だったからな)

 脳裏に【期待していますよ……】と書き込まれる。

 「ああ……何処まで期待に応えられるかわからないが、この能力で成り上がってみせる!」

 半分ヤケクソで言い真生は偽物だとしても絶対に魔王になってやると決心したのだった。