着替えを終えた魔王の首筋には数ヶ所キスマークが確認できる。恐らくじゃなくてもライゼアがしたものだろう。
 そんな真生は慣れたのだろうか平然とした表情で書斎の机の椅子に座っていた。そう、あれから着替えを終え書斎に来ていたのだ。
 机の前にはライゼアとダランカルとナシェルが立っている。

 「この三日間……なんとか気づかれずに書斎と中庭と寝室の移動を繰り返せた。ナシェルの能力である透明化と結界のお陰だ」
 「わ~い! 魔王さまに褒められたのじゃ。じゃあ、そろそろ着替え以外でも魔王さまに触れて良いかのう?」
 「……まだだ。悪い……その時になったら俺の方から言う」

 その言葉を聞きナシェルは残念と思い肩を落とした。

 「分かったのじゃ。残念だけど……そうするかのう」
 「現在マオウ様は、アタシだけのものですもの」
 「……できればライゼア、お前も自粛してくれると助かる」

 そう言われライゼアは落ち込み肩を落とし暗い表情になる。

 「分かりましたわ。もう少し自粛いたしますう」
 「二人共に魔王さまが好きなのはいいが程々にしろよな。これから特に周囲にも示しがつかねえ」
 「ああ……俺は魔王に覚醒するって覚悟を決めた。だから周囲の者に舐められたら駄目なんだ」

 真剣な表情で真生は無作為に一点をみた。
 それをみたライゼアとナシェルは、ウットリしている。

 「その通りだと思いますぜ。恐らくパーティー前の顔合わせから魔王さまの力量を試しにかかる者どもがいる」
 「ああ、ソイツらに俺が勝利すればいい……それだけだ」
 「フゥー……その様子じゃ今度こそ覚悟ができたってことか」

 そう問われ真生は頷いた。

 「ここまで来て、また後退する訳にもいかないからな。まだ、ちゃんと皆の前で会話できるか不安だが」
 「まさかマオウ様が対人恐怖症だとは思いませんでしたわ」
 「……極端に酷い訳じゃない。だが……大勢の前で何かを話すのは苦手だ」

 また気が重くなり真生は胃が痛くなってくる。

 「それはオレ達がフォローするって言ったはずだ。魔王さまは皆の前で不安な顔などみせないでくだせえ」
 「そうだな……最初の仲間がお前たちで良かった」
 「仲間……そう言ってくれるのは嬉しい。だがオレ達は魔王さまの家臣ですぜ」

 キリッとした表情でダランカルは真生を見据えた。

 「家臣か……そうだな。俺は真の魔王になる。そうなれば自ずとお前たちは、そうなるのか」
 「不安なのかのう? だけどウチらは今までと変わらないのじゃ」
 「そうですよ。今まで通りマオウ様と一緒ですう」

 それを聞き真生は目を潤ませる。

 「魔王さま、泣くのはオレ達の前だけにしてくだせえよ」
 「そうだな……すまない。本当にお前たちには感謝しかないよ」

 真生がそう言うと三人は「ありがたきお言葉です」と言い笑みを浮かべた。

 「それじゃあ、そろそろ謁見の間に向かいましょうぜ」

 そう言われ真生は頷き立ち上がり、ナシェルの前までくる。
 真生が自分の前まで来たのを確認するとナシェルは透明化の力を使った。
 すると真生の姿は一瞬でみえなくなる。

 「何時も思うが大丈夫だよな?」
 「問題ないのじゃ。ウチにはみえているからのう」
 「ズルいですう。アタシもみえるようにして欲しいですわ」

 その会話を聞きダランカルは深い溜息をついた。

 「行きますぜ!」

 それを聞き真生は「ああ……」と応える。
 ダランカルはその言葉を確認すると歩き出した。
 その後ろを真生が追う。
 真生のあとをライゼアとナシェルが追いかける。
 そして真生たち四人は書斎を出て謁見の間へと向かった。