「気が重い……」

 ハーっと溜息をつき真生は頭を抱え机上の一点をみつめる。

 「らしくねえ。もっと堂々としてた方がいいと思うぞ」
 「ダランカルの言う通りだ。そんなの分かっている。だが……大勢の前に出て演説をするんだろ?」
 「勿論ですう……マオウ様の凛々しい姿を皆にみせませんと」

 それを聞き真生は胃が痛くなってきた。

 (ハッキリ言って大勢いる人前で話をするなんて無理だ。だが、やらないと塔に行けないし先にも進めない。
 やらないといけないのは分かってる。緊張……いや、それだけじゃない。幾ら俺が能力で、どうにでもできるって言っても相手は魔族だぞ)

 考えすぎてしまい真生は余計に気が重くなり身を震わせている。

 「もしかして皆のことを考えてでしょうか?」
 「なるほど……魔王さまは、みんなに怪我をさせたくないと考えているのか」
 「うむ、魔王さまなら考えそうなのじゃ」

 いや違うと言いそうになるも真生は、もしかしたら回避できるかもしれないと思いとどまった。そして笑みを浮かべ三人へ視線を向ける。

 「そ、そういう事だ。他の方法はないのか?」
 「無理ですわ。先程も言いましたけれど、やるなら一度にした方が良いと思いますう」
 「その通りだ。まあ……魔王さま、気にすることはねえ。歯向かう者は容赦なく殺してもいいと思いますぜ」

 そう言われ真生は、やはり逃げられないのかと落ち込み暗い顔になった。

 「……そうだな。まあ俺だけじゃない。お前たちも居るんだ。なんとかなるか」
 「そうですよ。アタシ達もいますう。それに、もしマオウ様が暴走しそうになった時にはとめますので」
 「それは無理じゃねえのか? オレ達よりも強い魔王さま相手じゃな」

 どうしてなのかとライゼアは首を傾げる。

 「力尽くでは勝てないかもしれませんが、こうすれば気持ちも変わると思いますう」

 そう言いながらライゼアは真生の額にキスをした。
 いきなりキスをされた真生の顔は真っ赤になり、そのまま椅子ごと後ろに倒れる。

 「あーどうすんだ? いきなりライゼアが変なことするから魔王さま……顔を赤くして失神してんぞ」
 「そういっても……我慢できなかったのですう」
 「ウチも今のうちにするのじゃ。起きるとできないからのう」

 そばまでくるとナシェルは真生の頬に口づけをした。
 それをみてダランカルは頭を抱える。
 何か柔らかいものを感じ真生は目覚めた。

 「ん……ん? あ、頭が痛い」

 そう言いながら真生は起きて立ち上がる。そして椅子を立たせると腰かけた。

 「マオウ様……いきなり、ごめんなさい。まさか、キスしたら倒れるなんて思わなかったのですう」
 「あ、ああ……大丈夫だ。不意をつかれて驚いた。できれば事前に……だな」

 顔を赤らめ真生は言葉に詰まる。

 「そうですね……分かりましたわ。これからは事前に許可を頂きますう」
 「ああ、そうしてくれると助かる」
 「良いのう……ウチも、もっとしたいのじゃ」

 不貞腐れた顔でナシェルは真生をみた。

 「……ナシェル。お前は、どうしたらいい? そうだな……俺の体に暫く何もしないというなら気が変わるかもしれないぞ」
 「何もしなければ……分かったのじゃ。魔王さまに嫌われるのは嫌だからのう」
 「フゥー……仕方ない、やるか。決行は、さっき決めた三日後でいいな?」

 今度こそ腹をくくり真生は、そう三人に問いかける。
 それを聞きライゼアとナシェルとダランカルは、コクッと頷き真剣な顔で真生をみた。
 その後、真生はライゼア達にアドバイスをもらいながら三日後に行われるお披露目パーティーの準備を整える。


 ……――そして、いよいよ三日後の朝がきた。