「こんなもんか? まだ掃除したりねぇな」

 そう言いながら魔王のような衣装を纏った男性は目の前に血だらけで倒れ……いや瀕死状態で地べたに転がって居る者たちを見回した。

 この男性は狩野真生(かりの まお)と云い二十五歳である。そして、この世界バーバロイスの者ではない。そう別世界からの転移者だ。

 「マオウ様、流石ですわ〜! 次の相手は、どんなヤツかしら……楽しみですう」

 紫色の髪でお団子ツインの女性はそう言い、ウットリとしながら真生のことをみている。

 この女性は魔族のライゼア・ミミルク。サキュパスとヴァンパイアが合わさったヴァンキュスと云う、この世界にだけ存在する魔種族だ。
 年齢は敢えて言わないでおこう。どっちかといえば可愛いと云うよりも美人のお姉さんで結構なほど大きな乳だ。

 「ああ、そうだな。どんな相手だって蹴散らしてやる。それはそうと、この部屋どうすんだ?」

 そう言いながら真生は辺りを見回した。
 そう襲ってきたヤツラを倒し暴れていたため部屋が滅茶苦茶になっている。

 「勿論、マオウ様が片付けるのですわ」
 「やっぱ、そうなるよなぁ。仕方ない……やるか」

 そう言い真生は手を目の前に翳した。

 《掃除レベル3 周辺の片付け!!》

 そう叫ぶと翳した手の前に魔法陣が現れる。その後、魔法陣が発した光は周囲に広がり部屋の片付けを始めた。
 その様子をライゼアは、ニコニコしながらみている。

 「やっぱりマオウ様は凄いですわ。あれだけ破壊された物を綺麗に片付けてしまうのですもの」

 そう言われ真生は苦笑した。

 (ハァー……そういえば俺は、なんでこうなったんだっけ? ここんとこ忙しくて忘れてたけど……)

 そう考え真生は思い返してみる。

 ――時は遡り約二ヶ月前――

 とある国にある町の駅前通りだ。
 会社の帰り真生は駅を出ると道を歩いていた。
 辺りには人が少ない。いつも、こんな感じである。

 (なんか、いいことないかなぁ。いつもいつも家と職場の往復で疲れるだけだし。帰ってやることって云ったら……ご飯食べて風呂に入る。
 そのあとゲームやるか動画でアニメを観るかだしなぁ。まあ……偶に小説や漫画も読むけどな。
 それでも退屈なんだよ……そう、もっとワクワクするようなことが起こればいいのに)

 そう思いながら真生は空を見上げた。

 「なんか曇ってきた。これは一雨きそうだ……早く帰ろうっと」

 色々なことを思い浮かべながら道を歩いていると真生の周囲だけが漆黒の闇にのまれたように黒く染まる。

 「……!?」

 何が起きたのか分からず困惑し固まった。

 (……何が起きた? それに周囲が黒く染まり影のようだ。いや、それだけじゃない……段々縮んでる!)

 そのまま真生は、その黒い物にのみ込まれ消える。
 そして真生の居た周辺には何もなかったように只々そよ風が吹いているだけだった。