朝の魔術理論の授業。
静かな教室に、教師の声だけが響いている。
俺はいつも通り、教室の隅の席でノートを取り続けていた。
この位置は、俺にとって一番落ち着く場所だ。誰からも注目されず、何かあってもすぐに距離を置ける。
前世で書いた物語の舞台に、まさか転生してくるとは思ってなかったが、
こうして“作中のモブ”として存在するなら、目立たないに越したことはない。
少なくとも、ストーリーの本筋には極力関わらないようにしようと思っていた。
……なのに、だ。
教室の中央より少し前。
そこに座る彼女の視線が、さっきから何度かこちらに向けられているのを感じていた。
フィリア=セレスティア。
王国の第一王女であり、この物語のヒロイン。
俺が作った物語の中で、最も気を遣って描いたキャラクターだ。
いや、気を遣ったというより……想いを込めすぎた、のかもしれない。
正直夢中になりすぎて記憶が曖昧だ…。
とにかく、彼女がこちらを見る理由なんて、ないはずだ。
俺は平民で、魔力も並以下。
成績だって、特別優れているわけじゃない。
学園に入ってからも、なるべく彼女の周囲には近づかないようにしていた。
けれど今日の彼女の目には、明確な“意識”があった。
探るような目。
評価をするでもなく、軽蔑でもなく。
ただ、純粋に“俺という存在”を見極めようとするような、そんな視線だった。
(……俺、なんかしたか?)
まるで、自分が設定した性格から少し逸脱した感覚…。
前世の自分なら「じゃあ、ここをフラグにして…」なんて言ってたかもしれない。
でも今の俺には、その違和感がむしろ警戒心を煽ってくる。
その後の実技訓練でも、彼女と同じ班に割り振られた。
どうせ、偶然だろう。教官が勝手に決めたことだ。もう、この学校のシステムもはっきり覚えていない…。
けれど、彼女は明らかに意識してこちらを見ていた。
視線を感じるたび、心の奥がざわつく。
俺の魔術を見て、フィリアは何かを考えていた。
それが良い印象なのか、悪い印象なのかは分からない。
けれど確かに、彼女の中で“リオン=グレイ”という存在が、ただの名前から、何か別のものに変わりつつあるのを感じた。
(まずいな……これは、想定外だ)
本来なら、彼女の隣にいるのは、俺じゃない。
“物語の主人公”としてデザインされた男”のはずだ。
俺はそのストーリーから外れた、ただの傍観者。
そう在るべきだったのに。
フィリアの視線が、また俺に向く。
次の瞬間、目が合った。
たったそれだけのことなのに、俺の中で警鐘が鳴る。
(距離を取った方がいい。俺は彼女に関わるべきじゃない)
そう思って視線を外す。
それでも、どこか心の片隅が騒がしかった。
彼女の目の奥にあった“疑問”。
それが、俺に向けられるべきでなかったことを知っているからこそ——
なおさら、不安になった。
この物語は、もう歪み初めて止まらない…。
静かな教室に、教師の声だけが響いている。
俺はいつも通り、教室の隅の席でノートを取り続けていた。
この位置は、俺にとって一番落ち着く場所だ。誰からも注目されず、何かあってもすぐに距離を置ける。
前世で書いた物語の舞台に、まさか転生してくるとは思ってなかったが、
こうして“作中のモブ”として存在するなら、目立たないに越したことはない。
少なくとも、ストーリーの本筋には極力関わらないようにしようと思っていた。
……なのに、だ。
教室の中央より少し前。
そこに座る彼女の視線が、さっきから何度かこちらに向けられているのを感じていた。
フィリア=セレスティア。
王国の第一王女であり、この物語のヒロイン。
俺が作った物語の中で、最も気を遣って描いたキャラクターだ。
いや、気を遣ったというより……想いを込めすぎた、のかもしれない。
正直夢中になりすぎて記憶が曖昧だ…。
とにかく、彼女がこちらを見る理由なんて、ないはずだ。
俺は平民で、魔力も並以下。
成績だって、特別優れているわけじゃない。
学園に入ってからも、なるべく彼女の周囲には近づかないようにしていた。
けれど今日の彼女の目には、明確な“意識”があった。
探るような目。
評価をするでもなく、軽蔑でもなく。
ただ、純粋に“俺という存在”を見極めようとするような、そんな視線だった。
(……俺、なんかしたか?)
まるで、自分が設定した性格から少し逸脱した感覚…。
前世の自分なら「じゃあ、ここをフラグにして…」なんて言ってたかもしれない。
でも今の俺には、その違和感がむしろ警戒心を煽ってくる。
その後の実技訓練でも、彼女と同じ班に割り振られた。
どうせ、偶然だろう。教官が勝手に決めたことだ。もう、この学校のシステムもはっきり覚えていない…。
けれど、彼女は明らかに意識してこちらを見ていた。
視線を感じるたび、心の奥がざわつく。
俺の魔術を見て、フィリアは何かを考えていた。
それが良い印象なのか、悪い印象なのかは分からない。
けれど確かに、彼女の中で“リオン=グレイ”という存在が、ただの名前から、何か別のものに変わりつつあるのを感じた。
(まずいな……これは、想定外だ)
本来なら、彼女の隣にいるのは、俺じゃない。
“物語の主人公”としてデザインされた男”のはずだ。
俺はそのストーリーから外れた、ただの傍観者。
そう在るべきだったのに。
フィリアの視線が、また俺に向く。
次の瞬間、目が合った。
たったそれだけのことなのに、俺の中で警鐘が鳴る。
(距離を取った方がいい。俺は彼女に関わるべきじゃない)
そう思って視線を外す。
それでも、どこか心の片隅が騒がしかった。
彼女の目の奥にあった“疑問”。
それが、俺に向けられるべきでなかったことを知っているからこそ——
なおさら、不安になった。
この物語は、もう歪み初めて止まらない…。

