静まり返った学園の中庭。
夕暮れ時の石畳を、王女・フィリア=アルステラは一人歩いていた。
その美貌も気品も、周囲からは称賛の的だったが——
彼女にとって、そんなものは別にどうだっていい程度のものだった。
その日、些細な一言をきっかけに、貴族の男子数人に囲まれていた。
冷笑、軽い嫌味、悪意のない悪意。
彼らは彼女の高慢な態度を咎めるふりをして、ただ優越感に浸っていた。
フィリアは、何も言い返さなかった。
言葉を返せば、王族としての威圧だと受け取られる。
沈黙すれば、また高飛車だと笑われる。
いつものことだった。
──そのはずだった。
「……おや。お姫様が、弱い獣に囲まれてるのかと思ったよ」
柔らかな声が響く。
誰もいないはずの空間に、ひとりの少年が立っていた。
…灰色の制服。平民階級の生徒の着る制服…。
私と同じクラスの…名前は、確か、リオン=グレイ…。
「君たち、群れるのは勝手だけど。犬が吠えるなら森の中でどうぞ。姫は、そういうの、嫌いだって」
その声は静かだったが、人を萎縮させるような雰囲気があった。
フィリアの周囲から、貴族たちがひとり、またひとりと離れていく。
怒鳴るでも、威圧するでもなく——言葉だけで空気を変えた。
「……あなた、何者なの?」
すると、彼は微笑してこう返した。
「さっきも言った通り俺は通りすがりの男子生徒だよ」
それだけ言って彼は颯爽と去っていった。
その日からだった。
“彼”が、私の世界に入り込んできたのは。
夕暮れ時の石畳を、王女・フィリア=アルステラは一人歩いていた。
その美貌も気品も、周囲からは称賛の的だったが——
彼女にとって、そんなものは別にどうだっていい程度のものだった。
その日、些細な一言をきっかけに、貴族の男子数人に囲まれていた。
冷笑、軽い嫌味、悪意のない悪意。
彼らは彼女の高慢な態度を咎めるふりをして、ただ優越感に浸っていた。
フィリアは、何も言い返さなかった。
言葉を返せば、王族としての威圧だと受け取られる。
沈黙すれば、また高飛車だと笑われる。
いつものことだった。
──そのはずだった。
「……おや。お姫様が、弱い獣に囲まれてるのかと思ったよ」
柔らかな声が響く。
誰もいないはずの空間に、ひとりの少年が立っていた。
…灰色の制服。平民階級の生徒の着る制服…。
私と同じクラスの…名前は、確か、リオン=グレイ…。
「君たち、群れるのは勝手だけど。犬が吠えるなら森の中でどうぞ。姫は、そういうの、嫌いだって」
その声は静かだったが、人を萎縮させるような雰囲気があった。
フィリアの周囲から、貴族たちがひとり、またひとりと離れていく。
怒鳴るでも、威圧するでもなく——言葉だけで空気を変えた。
「……あなた、何者なの?」
すると、彼は微笑してこう返した。
「さっきも言った通り俺は通りすがりの男子生徒だよ」
それだけ言って彼は颯爽と去っていった。
その日からだった。
“彼”が、私の世界に入り込んできたのは。

