俺の名前は、リオン＝グレイ。
平民出身の、聖星魔術学園|《せいせいまじゅつがくえん》一年生。
……なんて、建前だ。
本当の俺は——神谷ソウマ。
前世でラノベを書いてた、ただの高校生作家だ。
で、今のこの世界は……俺が書いたラノベの中身。
ありえないけど、事実。
事故にあって目が覚めたら、俺は自分の物語のモブキャラになっていた。
「……ま、主人公じゃないってのが逆に気楽だけどな」
俺がこの世界で決めた目標はシンプルだ。
“目立たないように、静かに暮らす”。
物語には関わらない。
主人公ともヒロインとも、距離を取る。ただ、事態を傍観していくだけ・・・。
そう思ってた——あの日までは….

放課後の中庭。
ふと通りがかった俺の耳に、嫌な声が飛び込んできた。
「へえ、さすがは王女様。高飛車な態度も、一級品だな」
「誰かがちゃんと“しつけ”しないとね？」
囲まれていたのは、彼女だった。
俺が書いたラノベのヒロイン。
気高くて、少し不器用で、でも本当は寂しがりやな——
フィリア・アルステラ。
彼女は黙っていた。言い返そうともせず、ただ立っていた。
……ああ、ダメだ。
こういうの、見てられねぇ。
作者として？違う。そんなの関係ない。

“彼女が、傷ついてる”。

それだけで、俺の足は勝手に前に出てた。
「……おや。お姫様が、弱い獣に囲まれてるのかと思ったよ」
貴族の男たちが振り向く。
俺は平然を装って、歩み寄る。
「君たち、群れるのは勝手だけど。犬が吠えるなら森の中でどうぞ。姫は、そういうの、嫌いだって」
数秒の沈黙のあと、ざわりと空気が変わった。
「てめぇ、何者だ？」「ただの通りすがりの男子生徒ですが？」
そう言って微笑むと、連中は何も言い返さずに去っていった。
「……あなた、何者なの？」
彼女が俺を見る。
初めて見る瞳だった。
いや、何百回と“想像してきた”瞳だった。
「さっきも言った通り俺は通りすがりの男子生徒」
冗談のつもりで言ったけど、
なぜか彼女の視線は、ずっと俺を見つめていた。