わたし達は、確かにここに存在した『三笠燈月』を忘れないために、まずはお互いの家にある過去の交換日記を読み返した。燈月の家にある分も、家族さんに頼んで見させて貰った。
久しぶりに足を踏み入れた彼女の部屋は、かつて遊びに来た時のまま、その時間を止めていた。
カーテンの色も、壁に飾られた三人の写真も、修学旅行で買ったお揃いのキーホルダーがついた鞄も、何一つ変わらない。
彼女のお気に入りの白いワンピースも、わたし達よりも着ることのなかった真新しい制服も、ハンガーにかけられたままもう二度と袖を通す人がいないのに、ただ微睡んでいるだけのように静寂を保っている。
何となく、何かに触れて動かしてしまうのは躊躇われた。時が動き出して、この部屋が閉じ込めていた燈月の時間が失われてしまう気がした。
けれど意を決して、本棚に大切に保管されていた過去の交換日記を広げる。拙くも一生懸命書かれたであろう幼い丸文字を辿ると、今もベッドの上に大きなくまのぬいぐるみを抱いて寝転ぶ燈月が居るような気がして、あの日我慢したはずの涙が再び喉奥を押し上げてきた。
全ての日記を読み返し、燈月のお母さんからの夕食の誘いを断って、わたし達はお暇することにする。
愛娘が亡くなって、傷心の癒えぬ内にその友達が手付かずの部屋に上がり込んだのだ。思うところもあったろうに、燈月のお母さんは昔から変わらず優しく接してくれた。だから余計に、何だか申し訳なくなった。
きっともう、何かの理由なしに訪れることも出来ないのだろう。幼い頃から何度も通った三笠家には、見慣れない小さな仏壇が出来ていて、その中で相変わらず微笑んでいる燈月の写真は、どこか知らない子のようだった。
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