「兵の協力もあっての今日の討伐だからな。それがこうした成果に結びついて、嬉しいのさ」
「なるほどでしゅね」
「さて、どうする? 調合は終わったわけだが……」
「お腹が空いたでしゅ」
お腹を押さえるライラに剣を納めたバルダークが向き直る。
「では、ぜひとも砦でお食事を。すぐに用意させます」
「そーでしゅね。あとは……」
ライラが魔物の残骸をじーっと眺める。
「あれも使えるでしゅ!」
「魔物は食べられませんが……?」
「それが! なんとでしゅね!」
ライラがバッグパックからどーんと色々な瓶を取り出した。
「あたちのスパイスを使うと、まぁまぁ……そこそこの味になるはずでしゅ!」
アシュレイは残骸となった植物系の魔物を見やる。
獣系の魔物はまだわかるが、植物系のこれらはどうなるというのか。
が、それは杞憂であった。ライラはスパイスを駆使して魔物の調理を始める。
料理用の鍋に木の皮や根、葉などをぶちこみ……煮込みにする。
するととんでもなく美味い出汁が取れたのである。
「いい感じでしゅねー、スープは香味野菜が決めるでしゅ」
そこに色々な肉がぶち込まれていく。
とはいえ、元は砦の備蓄の肉だ。さほど上等ではない。
だが、筋張った牛肉も硬めの豚肉もこの魔物スープに煮込まれると美味しく変身する。
「あいあーい、こっちももう食べられるでしゅよ!」
多めの味見をした後、ライラが兵に呼びかける。
兵たちも興味半分、怖さ半分で鍋を食べ始め――。
「うーん、一緒に入れた肉の臭みがこんなに消えるとはなぁ……」
「美味い、スープがとにかく美味い!」
「おかわり、もっとおかわり!」
兵たちがライラの謎鍋を絶賛し、ガツガツと食べていく。
気が付けば鍋に兵が群がり、空になろうとしていた。
その光景を見てアシュレイも肩の力を抜く。
「食には本気だったな、そう言えば」
「もちろんでしゅ!」
もしゃもしゃ。
ライラが魔物の根っこを噛み砕く。
濃厚なジャガイモみたいな味がして、実に美味い。
「にしても、よくやった」
「何がでしゅか?」
「いや、お前の魔法薬はきっと多くの人のためになる……という話だ」
「当たり前でしゅ。あたちのまほーやくで皆もハッピー、あたちもハッピーになるんでしゅ!」
口調は舌っ足らずでやっていることも滅茶苦茶、だがライラはこういう存在なのだ。
アシュレイは改めてそれを思うのだった。
宴が落ち着いてくると、ライラは疲労と満腹感でゆらゆらと寝そうになっていた。
「ふにゅ……」
「主様はもう眠たいみたいですねぇー、ふぁっ……」
そんなことを言うモーニャもあくびをしていた。
アシュレイが一働きをしたふたりを優しく眺めていると、バルダークがやってくる。
「少しよろしいでしょうか、陛下」
「ああ、構わんぞ」
バルダークに言われ、アシュレイはライラたちから少し離れる。
アシュレイにしては不用心であるが、それはバルダークに対する信頼の現れでもあった。
「今回の件、誠に感謝のしようもございません。沼の魔物も減り、このような魔法薬まで……」
「俺はすべきことをしたまでだ。それよりも腕に違和感はないか?」
「風や湿気は感じませんが、動かすのには不自由しません。思いのまま動いてくれる義手のようですな」
「なら、実用に耐えそうか」
「ええ……強力な魔物が暴れるたび、手足を失う者が出ます。その者たちへの大きな手助けとなるでしょう」
そこでバルダークは言葉を選びながら発した。
「ボルファヌ大公はまだ陛下の慧眼と先見の明を認められないようですが」
「ふん、叔父殿と門閥貴族はまだ俺に不服か」
「しかし陛下の切り崩しが功を奏し、焦っておられるご様子……」
「ほう……」
アシュレイが腕を組んで思考を巡らせる。
バルダークはボルファヌ大公に近しいとはいえ、職務上は必ず中立を保ってきた。
しかし今、彼の心中に変化が訪れつつあるようだ。
「ボルファヌ大公の手の者が、ここや国内の他の場所を行き来しているのはご存知でしょうか?」
「……どこら辺だ?」
バルダークがヴェネト王国の地名をいくつか上げる。
そのどれもが聞き覚えがあれど、大公の手の者が動くような場所ではない。
「グローデン、石化の沼……その他の場所も魔物が活発な場所だな」
「ここでも魔物の討伐に手を貸して、素材を持っていっているようで」
「リストはあるのか?」
「もちろん。とはいえ、全て合法ですが……」
「そうだな、魔物の討伐に部下を送り込んで素材を優先的に確保しても、何ら罪にはならない。それはライラもしていることだ」
ボルファヌ大公はアシュレイとは違い、その魔力や知識の全てを魔法薬に注ぎ込んでいる。
素材も魔法薬へと投じているのは想像に難くない。
「……ですが、何を手に入れているかがわかれば、陛下のためにもなるかと」
「ふむ、そうだな……」
ボルファヌ大公の作る魔法薬は彼自身の力の源泉のはず。
その詳細は知れなかったが、バルダークとライラの協力があれば……。
「わかった、可能な限りの情報を教えてもらおう」
「なるほどでしゅね」
「さて、どうする? 調合は終わったわけだが……」
「お腹が空いたでしゅ」
お腹を押さえるライラに剣を納めたバルダークが向き直る。
「では、ぜひとも砦でお食事を。すぐに用意させます」
「そーでしゅね。あとは……」
ライラが魔物の残骸をじーっと眺める。
「あれも使えるでしゅ!」
「魔物は食べられませんが……?」
「それが! なんとでしゅね!」
ライラがバッグパックからどーんと色々な瓶を取り出した。
「あたちのスパイスを使うと、まぁまぁ……そこそこの味になるはずでしゅ!」
アシュレイは残骸となった植物系の魔物を見やる。
獣系の魔物はまだわかるが、植物系のこれらはどうなるというのか。
が、それは杞憂であった。ライラはスパイスを駆使して魔物の調理を始める。
料理用の鍋に木の皮や根、葉などをぶちこみ……煮込みにする。
するととんでもなく美味い出汁が取れたのである。
「いい感じでしゅねー、スープは香味野菜が決めるでしゅ」
そこに色々な肉がぶち込まれていく。
とはいえ、元は砦の備蓄の肉だ。さほど上等ではない。
だが、筋張った牛肉も硬めの豚肉もこの魔物スープに煮込まれると美味しく変身する。
「あいあーい、こっちももう食べられるでしゅよ!」
多めの味見をした後、ライラが兵に呼びかける。
兵たちも興味半分、怖さ半分で鍋を食べ始め――。
「うーん、一緒に入れた肉の臭みがこんなに消えるとはなぁ……」
「美味い、スープがとにかく美味い!」
「おかわり、もっとおかわり!」
兵たちがライラの謎鍋を絶賛し、ガツガツと食べていく。
気が付けば鍋に兵が群がり、空になろうとしていた。
その光景を見てアシュレイも肩の力を抜く。
「食には本気だったな、そう言えば」
「もちろんでしゅ!」
もしゃもしゃ。
ライラが魔物の根っこを噛み砕く。
濃厚なジャガイモみたいな味がして、実に美味い。
「にしても、よくやった」
「何がでしゅか?」
「いや、お前の魔法薬はきっと多くの人のためになる……という話だ」
「当たり前でしゅ。あたちのまほーやくで皆もハッピー、あたちもハッピーになるんでしゅ!」
口調は舌っ足らずでやっていることも滅茶苦茶、だがライラはこういう存在なのだ。
アシュレイは改めてそれを思うのだった。
宴が落ち着いてくると、ライラは疲労と満腹感でゆらゆらと寝そうになっていた。
「ふにゅ……」
「主様はもう眠たいみたいですねぇー、ふぁっ……」
そんなことを言うモーニャもあくびをしていた。
アシュレイが一働きをしたふたりを優しく眺めていると、バルダークがやってくる。
「少しよろしいでしょうか、陛下」
「ああ、構わんぞ」
バルダークに言われ、アシュレイはライラたちから少し離れる。
アシュレイにしては不用心であるが、それはバルダークに対する信頼の現れでもあった。
「今回の件、誠に感謝のしようもございません。沼の魔物も減り、このような魔法薬まで……」
「俺はすべきことをしたまでだ。それよりも腕に違和感はないか?」
「風や湿気は感じませんが、動かすのには不自由しません。思いのまま動いてくれる義手のようですな」
「なら、実用に耐えそうか」
「ええ……強力な魔物が暴れるたび、手足を失う者が出ます。その者たちへの大きな手助けとなるでしょう」
そこでバルダークは言葉を選びながら発した。
「ボルファヌ大公はまだ陛下の慧眼と先見の明を認められないようですが」
「ふん、叔父殿と門閥貴族はまだ俺に不服か」
「しかし陛下の切り崩しが功を奏し、焦っておられるご様子……」
「ほう……」
アシュレイが腕を組んで思考を巡らせる。
バルダークはボルファヌ大公に近しいとはいえ、職務上は必ず中立を保ってきた。
しかし今、彼の心中に変化が訪れつつあるようだ。
「ボルファヌ大公の手の者が、ここや国内の他の場所を行き来しているのはご存知でしょうか?」
「……どこら辺だ?」
バルダークがヴェネト王国の地名をいくつか上げる。
そのどれもが聞き覚えがあれど、大公の手の者が動くような場所ではない。
「グローデン、石化の沼……その他の場所も魔物が活発な場所だな」
「ここでも魔物の討伐に手を貸して、素材を持っていっているようで」
「リストはあるのか?」
「もちろん。とはいえ、全て合法ですが……」
「そうだな、魔物の討伐に部下を送り込んで素材を優先的に確保しても、何ら罪にはならない。それはライラもしていることだ」
ボルファヌ大公はアシュレイとは違い、その魔力や知識の全てを魔法薬に注ぎ込んでいる。
素材も魔法薬へと投じているのは想像に難くない。
「……ですが、何を手に入れているかがわかれば、陛下のためにもなるかと」
「ふむ、そうだな……」
ボルファヌ大公の作る魔法薬は彼自身の力の源泉のはず。
その詳細は知れなかったが、バルダークとライラの協力があれば……。
「わかった、可能な限りの情報を教えてもらおう」
