どーんとライラが胸を張る。鍋の中身は灰色であまり美味しそうな色でもなかった。
素材が素材なので、匂いも木の皮の匂いである。
「さて、誰が一番に飲むかでしゅけど……」
「主様は飲まないので?」
「アレンジを加えたので、他の人の観察を優先したいところでしゅ」
「……主様が飲まないなら私も……」
モーニャがちょっとだけ鍋から離れる。
「そういうことでしたら! ぜひとも私が!」
びしっと腕を上げたのはシェリーであった。
アシュレイが感心して頷く。
「勇気があるな」
「あれ? 陛下は……?」
「俺は毛生え薬で先陣を切ったから、今回は別の人間に試飲の栄誉を譲りたい」
「は、はぁ……そこまで名誉な行為と言われると逆にドキドキしてきてしまいますが……」
シェリーとしては軽い気持ちで手を挙げたのに、こう言われると身構えてしまう。
とはいえ撤回はせず、ライラから分身薬が入った木のコップを渡してもらう。
コップのサイズはかなり小さく、ライラの手のひらほどしかない。
「で、では……っ!」
ごくっ。
「……っ!!」
苦い。
さらに舌がピリっとして――シェリーは涙目になってくる。
「全部でしゅ! もっともっと、飲み切るでしゅ!」
「ふぐっ、はい……っ!!」
シェリーも国王付きの騎士。
根性を見せて激マズの薬を一気に流し込む。
「ぷはっ、はぁ……はぁっ……」
「大丈夫か、死にそうな顔をしているぞ」
「味はまぁまぁキツめかもでしゅからね」
「……まぁまぁのレベルではなさそうだが……」
「味はおいおい、かいりょーしてくでしゅ。で、シェリーたんはどうでしゅうか?」
「……はい、なんだか肩のところが熱くなって……」
「おおっ! 読み通りでしゅ!」
「くぅ、でも……これ、うくっ!」
シェリーが肩当てを外し、身をよじる。
と、シェリーの肩から蒸気が立ち昇ってきた。
「だ、大丈夫なんでしょうか!?」
「……問題ないでしゅ!」
「主様、ちょっと額に汗が……」
モーニャが前脚でライラの汗を拭う。
そして蒸気がシェリーの上半身をすっかり包み込んだ。
「おわぁー!!」
「おいおい、これはまた凄いな……!」
やがて蒸気が弱まり、シェリーの上半身が再び姿を見せる。
そこには右肩から腕が生えたシェリーがいた。
増えた腕は色も形も完璧に右腕である。
「……え」
すっすっと三本目の腕が動く。
「おー……うん、まぁ……予想通りでしゅ!」
「えええー!! 腕が、肩から腕がっ!」
「落ち着いてくだしゃい! それは自由に動くでしゅよ!」
シェリーの3本目の腕がVサインをした。
「た、確かに……思い通り動きます!」
「ほう、なるほど……」
アシュレイが腕を組んでシェリーに生えた3本目の腕を眺める。
「腕だけを分身させるのか。面白いアレンジだな」
「んむ、でしゅが……肩からだと微妙に不便かもでしゅ」
3本目の腕も長さは通常通り。
生えた位置的に両腕と同じようには使えそうになかった。
「そこも計算通りじゃないんですか、主様」
「肩から腕が出てこないとわからないでしゅよ」
「まぁ、しかし成功は成功だろう。効果時間は?」
「あのコップ一杯で一日は持つはずでしゅ」
「そんなに? それこそ凄いじゃないか」
「効果がすぐに切れちゃったら、無意味でしゅからね」
肩から腕の出ていたシェリーをバルダークが興味深そうに見つめる。
謎に生えてぴょこぴょこ動く腕を眺めると、彼の失われた右腕が疼いてきた。
「その分身薬、私にも試させてもらえませんでしょうか」
「……なんだと?」
「試飲係はいくらでも大歓迎でしゅ!」
訝しむアシュレイと対照的にライラは両手を上げる。
「もし右腕のない私が試したら、どうなるのでしょう?」
「わからないでしゅ!」
あまりにはっきりした答えにモーニャやシェリーはがくっとした。
「……この魔法薬は戦傷に苦しむ同胞を救う鍵になるかもしれません。どうか、試させてください」
「だが、貴卿は王国の要……」
「将が先陣を切らねば、部下はついていきません。私が試して上手く行けば、信用も得られましょう」
「ふむ……だそうだが、大丈夫か?」
「だいじょーぶでしゅ! ダメでも頭や股間から腕が生えるくらいでしゅ!」
「主様、地味に問題じゃありません?」
「明日には消えるでしゅよ!」
そんな副作用を聞いてもバルダークの決意は揺らがなかった、
「構いません。おかしな所に腕が生えても、改良に活かせるのなら……!」
「キマってましゅね! そーいうの、好きでしゅよ!」
ライラが手のひらサイズのコップに灰色の液体を注ぐ。
バルダークはコップを受け取ると、味にも匂いにも頓着せずに――ぐぐっと一気に飲み干した。
「おー! いい飲みっぷりでしゅ!」
「木の根や野草に比べれば、飲める味です」
で、少し待つとバルダークの上半身からも蒸気が立ち昇り――すっぽりと彼を包む。
「どうなるんでしょー……」
「見守るでしゅ」
「あからさまにワクワクしてますね、主様」
そして蒸気が弱まり、バルダークが姿を見せ――なくした腕の部分からしっかりと右腕が生えていた。
しかも生えてきたのは、しかるべき長さの右腕だ。
それはまるで失われていた腕が戻ったかのようであった。
バルダークが右腕を見つめながらくいくいっと動かす。
「問題はありましゅか?」
「いいえ……自由自在です。左腕と同じように動きます」
「まー、そうじゃないとダメでしゅからね!」
ライラがふんっと胸を張った。肩に腕を生やしたままのシェリーも頷く。
「ビジュアルは置いておいても、確かに違和感なく操作はできますね……」
「ふむ、ちょっと失礼」
バルダークが剣を抜き放ち、両手で構える。そのまま一閃。
その剣速は片腕の時よりも速いように思えた。
「……体幹のバランスは考えねばならないでしょうが、慣れればまず問題ないでしょう」
魔法薬の効果を見て、兵たちが盛り上がる。
「すげぇ、腕が生えるのか!」
「将軍万歳ー!!」
思ってもみなかった反応にライラが目をぱちくりさせた。
「こんなに喜んでくれるとは、予想外でしゅね」
素材が素材なので、匂いも木の皮の匂いである。
「さて、誰が一番に飲むかでしゅけど……」
「主様は飲まないので?」
「アレンジを加えたので、他の人の観察を優先したいところでしゅ」
「……主様が飲まないなら私も……」
モーニャがちょっとだけ鍋から離れる。
「そういうことでしたら! ぜひとも私が!」
びしっと腕を上げたのはシェリーであった。
アシュレイが感心して頷く。
「勇気があるな」
「あれ? 陛下は……?」
「俺は毛生え薬で先陣を切ったから、今回は別の人間に試飲の栄誉を譲りたい」
「は、はぁ……そこまで名誉な行為と言われると逆にドキドキしてきてしまいますが……」
シェリーとしては軽い気持ちで手を挙げたのに、こう言われると身構えてしまう。
とはいえ撤回はせず、ライラから分身薬が入った木のコップを渡してもらう。
コップのサイズはかなり小さく、ライラの手のひらほどしかない。
「で、では……っ!」
ごくっ。
「……っ!!」
苦い。
さらに舌がピリっとして――シェリーは涙目になってくる。
「全部でしゅ! もっともっと、飲み切るでしゅ!」
「ふぐっ、はい……っ!!」
シェリーも国王付きの騎士。
根性を見せて激マズの薬を一気に流し込む。
「ぷはっ、はぁ……はぁっ……」
「大丈夫か、死にそうな顔をしているぞ」
「味はまぁまぁキツめかもでしゅからね」
「……まぁまぁのレベルではなさそうだが……」
「味はおいおい、かいりょーしてくでしゅ。で、シェリーたんはどうでしゅうか?」
「……はい、なんだか肩のところが熱くなって……」
「おおっ! 読み通りでしゅ!」
「くぅ、でも……これ、うくっ!」
シェリーが肩当てを外し、身をよじる。
と、シェリーの肩から蒸気が立ち昇ってきた。
「だ、大丈夫なんでしょうか!?」
「……問題ないでしゅ!」
「主様、ちょっと額に汗が……」
モーニャが前脚でライラの汗を拭う。
そして蒸気がシェリーの上半身をすっかり包み込んだ。
「おわぁー!!」
「おいおい、これはまた凄いな……!」
やがて蒸気が弱まり、シェリーの上半身が再び姿を見せる。
そこには右肩から腕が生えたシェリーがいた。
増えた腕は色も形も完璧に右腕である。
「……え」
すっすっと三本目の腕が動く。
「おー……うん、まぁ……予想通りでしゅ!」
「えええー!! 腕が、肩から腕がっ!」
「落ち着いてくだしゃい! それは自由に動くでしゅよ!」
シェリーの3本目の腕がVサインをした。
「た、確かに……思い通り動きます!」
「ほう、なるほど……」
アシュレイが腕を組んでシェリーに生えた3本目の腕を眺める。
「腕だけを分身させるのか。面白いアレンジだな」
「んむ、でしゅが……肩からだと微妙に不便かもでしゅ」
3本目の腕も長さは通常通り。
生えた位置的に両腕と同じようには使えそうになかった。
「そこも計算通りじゃないんですか、主様」
「肩から腕が出てこないとわからないでしゅよ」
「まぁ、しかし成功は成功だろう。効果時間は?」
「あのコップ一杯で一日は持つはずでしゅ」
「そんなに? それこそ凄いじゃないか」
「効果がすぐに切れちゃったら、無意味でしゅからね」
肩から腕の出ていたシェリーをバルダークが興味深そうに見つめる。
謎に生えてぴょこぴょこ動く腕を眺めると、彼の失われた右腕が疼いてきた。
「その分身薬、私にも試させてもらえませんでしょうか」
「……なんだと?」
「試飲係はいくらでも大歓迎でしゅ!」
訝しむアシュレイと対照的にライラは両手を上げる。
「もし右腕のない私が試したら、どうなるのでしょう?」
「わからないでしゅ!」
あまりにはっきりした答えにモーニャやシェリーはがくっとした。
「……この魔法薬は戦傷に苦しむ同胞を救う鍵になるかもしれません。どうか、試させてください」
「だが、貴卿は王国の要……」
「将が先陣を切らねば、部下はついていきません。私が試して上手く行けば、信用も得られましょう」
「ふむ……だそうだが、大丈夫か?」
「だいじょーぶでしゅ! ダメでも頭や股間から腕が生えるくらいでしゅ!」
「主様、地味に問題じゃありません?」
「明日には消えるでしゅよ!」
そんな副作用を聞いてもバルダークの決意は揺らがなかった、
「構いません。おかしな所に腕が生えても、改良に活かせるのなら……!」
「キマってましゅね! そーいうの、好きでしゅよ!」
ライラが手のひらサイズのコップに灰色の液体を注ぐ。
バルダークはコップを受け取ると、味にも匂いにも頓着せずに――ぐぐっと一気に飲み干した。
「おー! いい飲みっぷりでしゅ!」
「木の根や野草に比べれば、飲める味です」
で、少し待つとバルダークの上半身からも蒸気が立ち昇り――すっぽりと彼を包む。
「どうなるんでしょー……」
「見守るでしゅ」
「あからさまにワクワクしてますね、主様」
そして蒸気が弱まり、バルダークが姿を見せ――なくした腕の部分からしっかりと右腕が生えていた。
しかも生えてきたのは、しかるべき長さの右腕だ。
それはまるで失われていた腕が戻ったかのようであった。
バルダークが右腕を見つめながらくいくいっと動かす。
「問題はありましゅか?」
「いいえ……自由自在です。左腕と同じように動きます」
「まー、そうじゃないとダメでしゅからね!」
ライラがふんっと胸を張った。肩に腕を生やしたままのシェリーも頷く。
「ビジュアルは置いておいても、確かに違和感なく操作はできますね……」
「ふむ、ちょっと失礼」
バルダークが剣を抜き放ち、両手で構える。そのまま一閃。
その剣速は片腕の時よりも速いように思えた。
「……体幹のバランスは考えねばならないでしょうが、慣れればまず問題ないでしょう」
魔法薬の効果を見て、兵たちが盛り上がる。
「すげぇ、腕が生えるのか!」
「将軍万歳ー!!」
思ってもみなかった反応にライラが目をぱちくりさせた。
「こんなに喜んでくれるとは、予想外でしゅね」
