翌日、ライラはベッドに寝かされていた。
「ふゅ……」
眠い目をこするとモーニャが隣に寝ている。
「おんせーん、ぱしゃぱしゃー」
手足をばたつかせ、なんだか楽しい夢を見ているようだった。
「起きたか」
アシュレイはもう起きて着替えていた。
またもやコップを手渡される――今度はオレンジジュースだった。
爽やかな酸味が心地良く眠気を遠ざける。甘やかされているが、とても良い気分だった。
「身体は大丈夫か?」
「だいじょうぶでしゅよ。すっきりでしゅ!」
ライラがぐーっと両腕を上げる。昨日の疲れは吹っ飛んでいた。
「で、これからどうするんでしゅ?」
「シニエスタンでの作戦は終わった。撤収作業は俺がいなくても問題なかろう。すぐ王都に戻るつもりだ」
「じゃあ……」
言いかけてライラは口をもごもごさせた。
アシュレイは自分の親だ。だけど、これからどうするかはまた別の話だった。
ライラは前世を含めても貴族らしいところはない。
果たしてアシュレイの娘として、自分はやっていけるんだろうか。
「とりあえず王都に来ないか。サーシャの墓が、そこにある」
「……あい」
そう言われたら断れない。
上手いな、とライラは思った。
「とりあえず、そうしましゅ」
「ああ、それまでこの部屋でゆっくりしていてくれ」
「そうはいかないでしゅよ」
「うん? なぜだ」
「昨日、ロイドのアレコレで冒険者ギルドに買い取り品を預けたまんまでしゅ! お金を受け取らないとでしゅよ!」
ライラの瞳は燃えていた。
色々なことがあってもお金のことを忘れないのはライラなのだ。
アシュレイが目を細めて笑う。
「ははっ、しっかりしているな……。わかった、シェリーを付けよう。後で合流だ」
シェリーと一緒にライラとモーニャは冒険者ギルドに向かった。
なのだが、シェリーはガチガチに緊張している。
道行く人を警戒しまくっていた。
「シェリーしゃん、落ち着いてくだしゃい」
「そ、そうは参りません……!」
出かける前にアシュレイから聞いたのだが、シェリーは昨日のことを全部知らされたとか。
なので彼女からしたらライラは王女、これは王女の護衛任務になるのだ。
「あんまり固くなっちゃっダメですよぉー、リラックスリラックス〜」
モーニャがシェリーの肩をモミモミする。
「そうでしゅ。あたちはあたちでしゅ。これからもライラちゃんって呼んでくだしゃい」
「うぅ……ありがとうございます」
そんなこんなでシェリーの緊張をほぐしながら冒険者ギルドに向かう。
「お邪魔しますぅー」
入るなり、モーニャが鼻をつまんで叫んだ。
「うわっ、お酒くさー!」
「宴のあとって感じでしゅね」
「ゴミもいっぱいですしね」
冒険者ギルドの床はゴミどころか、寝転んでいる冒険者でいっぱいだった。
昨日の宴はよほど盛り上がったらしい。
受付嬢のお姉さんたちもテーブルに突っ伏して寝息を立てている。
「ぐぅ〜……」
「完璧に寝てます。コレ」
「困ったでしゅね」
「叩き起こしますか?」
シェリーの目はちょっと本気だ。
王女様の予定を最優先らしい。
とはいえ、4歳児の健康ライフサイクルに合わせるのは忍びない。
そこにしっとりとした声が降ってきた。
「……来たのか」
「ロイドしゃん!」
ライラが振り向くと、奥からきちんと着替えたロイドが現れた。
目も足取りもしっかりしている。ロイドは片手にじゃらじゃら鳴る袋を持っていた。
「お金の件だろう? 実は昨夜、皆が酔い潰れる前に預かっていた」
「そうでしゅ! はぁ、ロイドしゃんは出来る人でしゅね〜」
「こうなるだろうと思ったからな」
ロイドはお金と打ち合わせの件で、アシュレイの宿舎に行こうとしていたのだとか。
その前にライラが到着したので、お金の件は一件落着である。
ロイドから明細と袋を受け取り、ちゃんと確かめたライラはふふんと頷く。
「ばっちりでしゅね。領収書、置いときましゅか」
適当な紙にお金を受け取ったことをぐりぐりと書く。
その文字を見て、シェリーがわずかに眉を寄せた。
「えーと……」
「シェリーしゃん、あたちの字はこんなもんでしゅよ」
シェリーがはっとした。どうやらライラの年齢を忘れていたらしい。
「そ、そうですね! 年齢からすれば神がかった域でした!」
「ちゃんと書けるだけ、凄いからな」
ライラの字はかなり下手だった。
なんせ4歳児。知能や魔力があっても異世界の文字なんて大人のようには書けない。
とはいえロイドの言う通り。意味の通った文を書けるだけでも偉いはずだ。
「モーニャ、ここに判を押してくだしゃい」
「はいはいー、えいっ!」
もにもに。インクをつけた前脚でぽんっとモーニャが判を押す。
レッサーパンダに肉球はあるが、毛に覆われている。
なので毛むくじゃらの前脚の印にはなるが、これがライラの判子だった。
「……モーニャちゃんの足跡にはどのような意味が?」
「こーすると少しだけ魔力が残るでしゅ。こんなのはあたちとモーニャ以外にはできまひぇん」
ライラが紙をひらひらさせる。
そうすると確かに風の魔力がわずかに香っていた。
「あたちのサインよりは、分かりやすいでしゅ」
お金を受け取り、ロイドを連れてライラはアシュレイの宿舎へと戻った。
「戻ったか。ロイドも来てくれたな」
「もちろん」
魔物が討伐されたのでロイドもやることがなくなったとか。
母国への報告は魔術で済ましたらしいので……彼も王都に同行するという。
「ロイドは大切な客人だ。歓迎する」
「ありがとう」
「これで用はすみましゅた。……れっつごー、でしゅ!」
ということでライラたちは王都へとアシュレイのテレポート魔術で移動した。
「ふゅ……」
眠い目をこするとモーニャが隣に寝ている。
「おんせーん、ぱしゃぱしゃー」
手足をばたつかせ、なんだか楽しい夢を見ているようだった。
「起きたか」
アシュレイはもう起きて着替えていた。
またもやコップを手渡される――今度はオレンジジュースだった。
爽やかな酸味が心地良く眠気を遠ざける。甘やかされているが、とても良い気分だった。
「身体は大丈夫か?」
「だいじょうぶでしゅよ。すっきりでしゅ!」
ライラがぐーっと両腕を上げる。昨日の疲れは吹っ飛んでいた。
「で、これからどうするんでしゅ?」
「シニエスタンでの作戦は終わった。撤収作業は俺がいなくても問題なかろう。すぐ王都に戻るつもりだ」
「じゃあ……」
言いかけてライラは口をもごもごさせた。
アシュレイは自分の親だ。だけど、これからどうするかはまた別の話だった。
ライラは前世を含めても貴族らしいところはない。
果たしてアシュレイの娘として、自分はやっていけるんだろうか。
「とりあえず王都に来ないか。サーシャの墓が、そこにある」
「……あい」
そう言われたら断れない。
上手いな、とライラは思った。
「とりあえず、そうしましゅ」
「ああ、それまでこの部屋でゆっくりしていてくれ」
「そうはいかないでしゅよ」
「うん? なぜだ」
「昨日、ロイドのアレコレで冒険者ギルドに買い取り品を預けたまんまでしゅ! お金を受け取らないとでしゅよ!」
ライラの瞳は燃えていた。
色々なことがあってもお金のことを忘れないのはライラなのだ。
アシュレイが目を細めて笑う。
「ははっ、しっかりしているな……。わかった、シェリーを付けよう。後で合流だ」
シェリーと一緒にライラとモーニャは冒険者ギルドに向かった。
なのだが、シェリーはガチガチに緊張している。
道行く人を警戒しまくっていた。
「シェリーしゃん、落ち着いてくだしゃい」
「そ、そうは参りません……!」
出かける前にアシュレイから聞いたのだが、シェリーは昨日のことを全部知らされたとか。
なので彼女からしたらライラは王女、これは王女の護衛任務になるのだ。
「あんまり固くなっちゃっダメですよぉー、リラックスリラックス〜」
モーニャがシェリーの肩をモミモミする。
「そうでしゅ。あたちはあたちでしゅ。これからもライラちゃんって呼んでくだしゃい」
「うぅ……ありがとうございます」
そんなこんなでシェリーの緊張をほぐしながら冒険者ギルドに向かう。
「お邪魔しますぅー」
入るなり、モーニャが鼻をつまんで叫んだ。
「うわっ、お酒くさー!」
「宴のあとって感じでしゅね」
「ゴミもいっぱいですしね」
冒険者ギルドの床はゴミどころか、寝転んでいる冒険者でいっぱいだった。
昨日の宴はよほど盛り上がったらしい。
受付嬢のお姉さんたちもテーブルに突っ伏して寝息を立てている。
「ぐぅ〜……」
「完璧に寝てます。コレ」
「困ったでしゅね」
「叩き起こしますか?」
シェリーの目はちょっと本気だ。
王女様の予定を最優先らしい。
とはいえ、4歳児の健康ライフサイクルに合わせるのは忍びない。
そこにしっとりとした声が降ってきた。
「……来たのか」
「ロイドしゃん!」
ライラが振り向くと、奥からきちんと着替えたロイドが現れた。
目も足取りもしっかりしている。ロイドは片手にじゃらじゃら鳴る袋を持っていた。
「お金の件だろう? 実は昨夜、皆が酔い潰れる前に預かっていた」
「そうでしゅ! はぁ、ロイドしゃんは出来る人でしゅね〜」
「こうなるだろうと思ったからな」
ロイドはお金と打ち合わせの件で、アシュレイの宿舎に行こうとしていたのだとか。
その前にライラが到着したので、お金の件は一件落着である。
ロイドから明細と袋を受け取り、ちゃんと確かめたライラはふふんと頷く。
「ばっちりでしゅね。領収書、置いときましゅか」
適当な紙にお金を受け取ったことをぐりぐりと書く。
その文字を見て、シェリーがわずかに眉を寄せた。
「えーと……」
「シェリーしゃん、あたちの字はこんなもんでしゅよ」
シェリーがはっとした。どうやらライラの年齢を忘れていたらしい。
「そ、そうですね! 年齢からすれば神がかった域でした!」
「ちゃんと書けるだけ、凄いからな」
ライラの字はかなり下手だった。
なんせ4歳児。知能や魔力があっても異世界の文字なんて大人のようには書けない。
とはいえロイドの言う通り。意味の通った文を書けるだけでも偉いはずだ。
「モーニャ、ここに判を押してくだしゃい」
「はいはいー、えいっ!」
もにもに。インクをつけた前脚でぽんっとモーニャが判を押す。
レッサーパンダに肉球はあるが、毛に覆われている。
なので毛むくじゃらの前脚の印にはなるが、これがライラの判子だった。
「……モーニャちゃんの足跡にはどのような意味が?」
「こーすると少しだけ魔力が残るでしゅ。こんなのはあたちとモーニャ以外にはできまひぇん」
ライラが紙をひらひらさせる。
そうすると確かに風の魔力がわずかに香っていた。
「あたちのサインよりは、分かりやすいでしゅ」
お金を受け取り、ロイドを連れてライラはアシュレイの宿舎へと戻った。
「戻ったか。ロイドも来てくれたな」
「もちろん」
魔物が討伐されたのでロイドもやることがなくなったとか。
母国への報告は魔術で済ましたらしいので……彼も王都に同行するという。
「ロイドは大切な客人だ。歓迎する」
「ありがとう」
「これで用はすみましゅた。……れっつごー、でしゅ!」
ということでライラたちは王都へとアシュレイのテレポート魔術で移動した。
