拓也side
悠瑠が昼休み以降帰ってこない。5限に帰ってこないことは薄々分かってた。でも、今は5限も終わった休み時間。さすがに遅すぎないか。
「悠瑠、失敗しちゃったのかな?」
心配そうにする浩平は、連絡が入らない携帯を見つめている。
「悠瑠の授業サボりは今に始まった訳じゃないでしょ。そんな心配しなくて大丈夫だよ。」
悠瑠は今までも授業をサボることは何度もあった。だからそこまで心配しなくていいはず。なのに、何故こんなにも胸騒ぎがするんだろうか。
「……拓也は、本当にいいの?」
「何が?」
「悠瑠と日下部くん。」
2人で椅子に座りながら窓側の壁にもたれかかる。浩平は目線だけを俺に移し、聞いてきた。
「俺は、伝えないって決めてたから。」
「応援できるってこと?」
「うん、入学式の日からゆっくり気持ちの整理してきたから。」
俺が今つける精一杯の嘘だった。
悠瑠の約束の話は知っていた。悠瑠が告白を断り続けているのは何故か聞いたことがあったから。だから、もし高校卒業まで見つからなかったら、その時は卒業式で告白しようと思ってた。
入学式の日、あと1年だと思った。窓から外を眺める悠瑠を見るのも、この想いにケジメをつけるのも。でも、日下部が見つかって、あの日は落胆した。でも同時に、約束を覚えてない日下部に心踊った。もう思い出すなとも思った。けど、苦しんでいる悠瑠を見るのはもっと嫌だった。
「俺って、親友失格だよな。」
「……そんなことないよ。悠瑠の気持ち尊重出来るのは親友しか出来ないよ。」
2人のことはもちろん応援している。でも、どこか俺のものにならないだろうかと考えてしまっている。
「2人が上手いこといけば、俺の気持ちに区切りがつくかなって思ったんだよ。」
「……その気持ちわかるよ。」
「え?」
「痛いほどわかる、その気持ち。」
2人で話していると、6限が始まる合図が鳴る。やっぱり悠瑠は帰ってこなかった。
俺たち3人の中でも悠瑠は秘密が多すぎる。悠瑠がこうしてサボっている時も、どこにいるか俺たちは知らない。
悠瑠の家にも行ったことない。家族の話もしないし、自分の話はほぼしない。
だから今回は話してくれて超嬉しかった。少し信頼されてる気が、頼られている気がした。だからこそ、俺の気持ちより、悠瑠の気持ちを優先したかった。それなのに悠瑠を振り回す日下部に怒りが込み上げる。
入学してすぐ事故って入院して友だち作りが出来なかった俺に声をかけてくれたのも、息が詰まりそうな程の勉強量で、疲弊していた浩平を救ったのも悠瑠だった。
このかけがえのない3人の関係を作ってくれたのは紛れもない悠瑠だった。
だから、あいつには幸せになってもらいたい。俺と浩平の切実な願いだった。
どんな噂があっても、俺らは悠瑠から離れなかった。あんなもん、悠瑠に振られたやつが流したデマだ。悠瑠は誰にでも優しく、清らかだ。
ボーッと授業を聞いていると6限が終わった。クラスのみんなは次々に帰る準備を始め、HRまで終わってしまった。けれど、悠瑠は帰ってこない。カバンはあるから勝手に帰ってるとは思えない。
「ねぇ、悠瑠が帰ってくるの待ってない?」
浩平がHR終了後、1番に俺の席に来た。心配なのは同じ。元々俺も残る気だった。
「うん、悠瑠の話も聞いてやらないとだし。」
少し笑って言うと、浩平も少し笑った。正直、悠瑠は話すか分からない。気分屋なところがあるし、今回のような話すケースの方が珍しい。
「悠瑠、泣いてくるかな?」
「無理して笑うに1票。」
「じゃぁ、俺は目を腫らしてくるに1票。」
「そこは泣いてくるじゃないんだ。」
「んー、悠瑠は泣かないでしょ、俺らの前では。」
浩平の意見に同感だった。きっと悠瑠は泣かない。
2人で悠瑠の帰りを待った。放課後、悠瑠の真似して窓から校門を眺めた。悠瑠はいつもどこを眺めていたのだろう。悠瑠は、日下部がいない頃から窓の外を眺めるのが好きだった。
「この窓から見てるとさ、自分も空を飛べるんじゃないかなって思うんだ。」なんてバカなことをよく言っていた。
俺が窓から眺めていると、日下部が校舎から出てきた。パッと俺の方を見て顔を歪め、綺麗にお辞儀をして真っ直ぐ門へと向かった。
悠瑠じゃなくてごめん。心の中で思った。あの顔の歪みはきっと悠瑠じゃないから残念がったんだろうなって思ったから。それを選んだのは彼なのに。
悠瑠にはいつも手を振るのに俺にはお辞儀か。随分対応に差があるんだな。
「日下部くんは教室帰ってきてたんだ。」
いつの間にか浩平が俺の後ろに来ていて、俺と一緒に窓を覗いていた。日下部が戻ってきているのに、悠瑠が戻っていないという事実で、俺らは悠瑠が振られたことを理解した。2人して悠瑠の席を見る。何もない綺麗な机は何故か少し寂しそうだった。
運動部の声が外から響く頃、教室のドアがガラガラッと開いた。
「「悠瑠!」」
俺らが残っていると思わなかったのか、悠瑠は目を大きく見開いて大粒の涙を静かに零す。まさかの出来事に、俺も浩平も声が出なかった。
「悠瑠、おいで。少し座ろう。」
浩平は絶対内容の詳細は聞かない。悠瑠が話してくれるのを静かにずっと待つ。それは俺も同じだった。悠瑠を囲むように1つの机に椅子を近づける。悠瑠は赤くなって目元を擦り、更に赤くした。こんなにも泣くなんて思わなかった。悠瑠は人に弱みを見せるのが苦手だ。
悠瑠の話なら、俺らはどんな話でも受け入れる覚悟だった。浩平は優しく悠瑠の背中を摩る。
「ごめ……、俺のせいで。」
「違うよ。俺らが悠瑠に会いたくて待ってたの。」
「言っただろ?俺らは悠瑠のこと大好きだから。」
悠瑠が散々泣いて落ち着いた頃、「俺の話聞いてくれる?」と控えめに小さな声で呟いた。俺らは大きく頷いて、悠瑠が話し出すのを待った。
「俺、想くんに好きだよって伝えた。けど、想くんは他に心に決めてる人がいるって。覚えてないって、伝えるのは早いって分かってたけど、それでも抑えきれなくて、振られて。」
「悠瑠……。」
「俺バカだよな。昔の約束守っちゃって、覚えてるはずないよな、あんな昔のこと。」
「悠瑠、お前はバカじゃないよ。」
「拓也、ッ。」
「かっこいいよ。日下部に一途で……、本当に俺の自慢の親友だよ。」
ここで「俺なら悠瑠を泣かせないよ。」なんて、かっこいいセリフを言えたら、悠瑠を俺のものに出来たのだろうか。それでも俺は、やっぱり悠瑠が困ることは出来ない。悠瑠の気持ちを尊重する方を選んでしまう。
「悠瑠、よく頑張ったね。話してくれてありがとう。」
「俺らは悠瑠が決めた事を尊重する。今後どうしていきたい?」
「俺が決めた事…。」
「うん、悠瑠は日下部くんのこと諦める?それともまだアピール続ける?」
悠瑠は、下を俯き口を閉じた。何かを必死に考えて葛藤していた。
「俺、想くんのこと諦めたくない…。想くんのこと、大好きなんだもん。」
止まっていたはずの涙がまた溢れてきた。悠瑠の頬を伝う涙は決心の涙だろう。明日は金曜日、平日だけどほぼ週末だ。泣けるだけ泣けばいい。
「こんなことなら出会いたくなかった。何で覚えてないんだよ、想くん……ッ。」
声を出して泣く悠瑠を愛おしいと感じる。俺は静かに悠瑠を抱きしめた。俺に出来ることはこれくらいしかない。悠瑠は俺の背中に手を回し、縋るように抱きついた。今は誰かに支えられなければ生きていくことは出来ない。いつも強い悠瑠が今日だけは弱く見えた。
「悠瑠、そんなこと言わないでよ。日下部くんとの再会は必然だったと思うよ。」
「そうだぞ、悠瑠。好きなんだろ?日下部のこと。」
悠瑠は俺の腕の中でコクリと小さく頷いた。
「じゃぁ、頑張ろ。絶対振り向かせよう。」
「俺らも出来ることがあれば全力で手伝う。なんなら、生徒会長権限とか使っちゃうよ!」
浩平が自信満々に冗談を言うもんだから、号泣していた悠瑠もクスリッと笑っていた。
「やっぱり、悠瑠は笑顔が1番だよ。」
「ありがとう、2人とも。」
俺もやっと気持ちに区切りをつけられそうだ。
悠瑠が本当に幸せになれば、どんな形でも隣にいられるだけで、それだけで俺は救われるから。
悠瑠が昼休み以降帰ってこない。5限に帰ってこないことは薄々分かってた。でも、今は5限も終わった休み時間。さすがに遅すぎないか。
「悠瑠、失敗しちゃったのかな?」
心配そうにする浩平は、連絡が入らない携帯を見つめている。
「悠瑠の授業サボりは今に始まった訳じゃないでしょ。そんな心配しなくて大丈夫だよ。」
悠瑠は今までも授業をサボることは何度もあった。だからそこまで心配しなくていいはず。なのに、何故こんなにも胸騒ぎがするんだろうか。
「……拓也は、本当にいいの?」
「何が?」
「悠瑠と日下部くん。」
2人で椅子に座りながら窓側の壁にもたれかかる。浩平は目線だけを俺に移し、聞いてきた。
「俺は、伝えないって決めてたから。」
「応援できるってこと?」
「うん、入学式の日からゆっくり気持ちの整理してきたから。」
俺が今つける精一杯の嘘だった。
悠瑠の約束の話は知っていた。悠瑠が告白を断り続けているのは何故か聞いたことがあったから。だから、もし高校卒業まで見つからなかったら、その時は卒業式で告白しようと思ってた。
入学式の日、あと1年だと思った。窓から外を眺める悠瑠を見るのも、この想いにケジメをつけるのも。でも、日下部が見つかって、あの日は落胆した。でも同時に、約束を覚えてない日下部に心踊った。もう思い出すなとも思った。けど、苦しんでいる悠瑠を見るのはもっと嫌だった。
「俺って、親友失格だよな。」
「……そんなことないよ。悠瑠の気持ち尊重出来るのは親友しか出来ないよ。」
2人のことはもちろん応援している。でも、どこか俺のものにならないだろうかと考えてしまっている。
「2人が上手いこといけば、俺の気持ちに区切りがつくかなって思ったんだよ。」
「……その気持ちわかるよ。」
「え?」
「痛いほどわかる、その気持ち。」
2人で話していると、6限が始まる合図が鳴る。やっぱり悠瑠は帰ってこなかった。
俺たち3人の中でも悠瑠は秘密が多すぎる。悠瑠がこうしてサボっている時も、どこにいるか俺たちは知らない。
悠瑠の家にも行ったことない。家族の話もしないし、自分の話はほぼしない。
だから今回は話してくれて超嬉しかった。少し信頼されてる気が、頼られている気がした。だからこそ、俺の気持ちより、悠瑠の気持ちを優先したかった。それなのに悠瑠を振り回す日下部に怒りが込み上げる。
入学してすぐ事故って入院して友だち作りが出来なかった俺に声をかけてくれたのも、息が詰まりそうな程の勉強量で、疲弊していた浩平を救ったのも悠瑠だった。
このかけがえのない3人の関係を作ってくれたのは紛れもない悠瑠だった。
だから、あいつには幸せになってもらいたい。俺と浩平の切実な願いだった。
どんな噂があっても、俺らは悠瑠から離れなかった。あんなもん、悠瑠に振られたやつが流したデマだ。悠瑠は誰にでも優しく、清らかだ。
ボーッと授業を聞いていると6限が終わった。クラスのみんなは次々に帰る準備を始め、HRまで終わってしまった。けれど、悠瑠は帰ってこない。カバンはあるから勝手に帰ってるとは思えない。
「ねぇ、悠瑠が帰ってくるの待ってない?」
浩平がHR終了後、1番に俺の席に来た。心配なのは同じ。元々俺も残る気だった。
「うん、悠瑠の話も聞いてやらないとだし。」
少し笑って言うと、浩平も少し笑った。正直、悠瑠は話すか分からない。気分屋なところがあるし、今回のような話すケースの方が珍しい。
「悠瑠、泣いてくるかな?」
「無理して笑うに1票。」
「じゃぁ、俺は目を腫らしてくるに1票。」
「そこは泣いてくるじゃないんだ。」
「んー、悠瑠は泣かないでしょ、俺らの前では。」
浩平の意見に同感だった。きっと悠瑠は泣かない。
2人で悠瑠の帰りを待った。放課後、悠瑠の真似して窓から校門を眺めた。悠瑠はいつもどこを眺めていたのだろう。悠瑠は、日下部がいない頃から窓の外を眺めるのが好きだった。
「この窓から見てるとさ、自分も空を飛べるんじゃないかなって思うんだ。」なんてバカなことをよく言っていた。
俺が窓から眺めていると、日下部が校舎から出てきた。パッと俺の方を見て顔を歪め、綺麗にお辞儀をして真っ直ぐ門へと向かった。
悠瑠じゃなくてごめん。心の中で思った。あの顔の歪みはきっと悠瑠じゃないから残念がったんだろうなって思ったから。それを選んだのは彼なのに。
悠瑠にはいつも手を振るのに俺にはお辞儀か。随分対応に差があるんだな。
「日下部くんは教室帰ってきてたんだ。」
いつの間にか浩平が俺の後ろに来ていて、俺と一緒に窓を覗いていた。日下部が戻ってきているのに、悠瑠が戻っていないという事実で、俺らは悠瑠が振られたことを理解した。2人して悠瑠の席を見る。何もない綺麗な机は何故か少し寂しそうだった。
運動部の声が外から響く頃、教室のドアがガラガラッと開いた。
「「悠瑠!」」
俺らが残っていると思わなかったのか、悠瑠は目を大きく見開いて大粒の涙を静かに零す。まさかの出来事に、俺も浩平も声が出なかった。
「悠瑠、おいで。少し座ろう。」
浩平は絶対内容の詳細は聞かない。悠瑠が話してくれるのを静かにずっと待つ。それは俺も同じだった。悠瑠を囲むように1つの机に椅子を近づける。悠瑠は赤くなって目元を擦り、更に赤くした。こんなにも泣くなんて思わなかった。悠瑠は人に弱みを見せるのが苦手だ。
悠瑠の話なら、俺らはどんな話でも受け入れる覚悟だった。浩平は優しく悠瑠の背中を摩る。
「ごめ……、俺のせいで。」
「違うよ。俺らが悠瑠に会いたくて待ってたの。」
「言っただろ?俺らは悠瑠のこと大好きだから。」
悠瑠が散々泣いて落ち着いた頃、「俺の話聞いてくれる?」と控えめに小さな声で呟いた。俺らは大きく頷いて、悠瑠が話し出すのを待った。
「俺、想くんに好きだよって伝えた。けど、想くんは他に心に決めてる人がいるって。覚えてないって、伝えるのは早いって分かってたけど、それでも抑えきれなくて、振られて。」
「悠瑠……。」
「俺バカだよな。昔の約束守っちゃって、覚えてるはずないよな、あんな昔のこと。」
「悠瑠、お前はバカじゃないよ。」
「拓也、ッ。」
「かっこいいよ。日下部に一途で……、本当に俺の自慢の親友だよ。」
ここで「俺なら悠瑠を泣かせないよ。」なんて、かっこいいセリフを言えたら、悠瑠を俺のものに出来たのだろうか。それでも俺は、やっぱり悠瑠が困ることは出来ない。悠瑠の気持ちを尊重する方を選んでしまう。
「悠瑠、よく頑張ったね。話してくれてありがとう。」
「俺らは悠瑠が決めた事を尊重する。今後どうしていきたい?」
「俺が決めた事…。」
「うん、悠瑠は日下部くんのこと諦める?それともまだアピール続ける?」
悠瑠は、下を俯き口を閉じた。何かを必死に考えて葛藤していた。
「俺、想くんのこと諦めたくない…。想くんのこと、大好きなんだもん。」
止まっていたはずの涙がまた溢れてきた。悠瑠の頬を伝う涙は決心の涙だろう。明日は金曜日、平日だけどほぼ週末だ。泣けるだけ泣けばいい。
「こんなことなら出会いたくなかった。何で覚えてないんだよ、想くん……ッ。」
声を出して泣く悠瑠を愛おしいと感じる。俺は静かに悠瑠を抱きしめた。俺に出来ることはこれくらいしかない。悠瑠は俺の背中に手を回し、縋るように抱きついた。今は誰かに支えられなければ生きていくことは出来ない。いつも強い悠瑠が今日だけは弱く見えた。
「悠瑠、そんなこと言わないでよ。日下部くんとの再会は必然だったと思うよ。」
「そうだぞ、悠瑠。好きなんだろ?日下部のこと。」
悠瑠は俺の腕の中でコクリと小さく頷いた。
「じゃぁ、頑張ろ。絶対振り向かせよう。」
「俺らも出来ることがあれば全力で手伝う。なんなら、生徒会長権限とか使っちゃうよ!」
浩平が自信満々に冗談を言うもんだから、号泣していた悠瑠もクスリッと笑っていた。
「やっぱり、悠瑠は笑顔が1番だよ。」
「ありがとう、2人とも。」
俺もやっと気持ちに区切りをつけられそうだ。
悠瑠が本当に幸せになれば、どんな形でも隣にいられるだけで、それだけで俺は救われるから。
