悠瑠side

 リビングで1人静かにアルバムをめくった。写真と日付を丁寧に記し、思い出をそのまま保存していた。
 大学生になって、社会人になった俺たち。あの時はこうだったとか、こんな風に思ってたとか、気づけば俺たちは、離れていた時間と同じだけの日々を一緒に過ごしていた。

 ◇◇◇

 あの日の俺たちは、社会人になっても、あまり学生の頃と変わらない。お互いのことを想って過ごしていた。男同士、結婚出来るわけでもなく、ただ平穏な日々が幸せだった。

 「ねぇ、悠瑠くん。今週末デート行こうよ。」
 「いいけど、どこ行くの。」

 想くんは顎に手を当て考える素振りを見せた。

 「あ、俺行きたいとこある。」

 「楽しみにしてて。」と満面の笑みで俺に言う。お前と行くところはどこでも楽しみだし、そんな気持ちは直接伝えることはなかった。最近想くんは忙しそうで、2人でゆっくり過ごすことが出来なかったし、予定が決まるだけで明日からの仕事も頑張れる気がした。

 忙しい平日がすぎるのはあっという間で、気づけば週末になっていた。

 「悠瑠くん起きて…って起きてる。」
 「今日デートなんだろ?そりゃ起きるよ。」

 いつもは朝が弱い俺でも起きれてしまうのは、想くんとのデートが久々で楽しみだから。社会人になってもこんな気持ちが高まるって、子どもみたいで恥ずかしい。

 「悠瑠くんを起こすの、結構毎日の楽しみなのに。」
 「ふはっ、お前変わってんな笑」

 俺は相当寝起き悪いのに、それを楽しみだなんて。こいつはきっと相当変わり者だ。準備をして、想くんの作ってくれた朝ごはんを食べた。

 「運転するよ。どこ行きたいの?」
 「いや、今日は俺がしたい!最近悠瑠くんがずっと運転してくれてたし、今日は俺が悠瑠くんをもてなしたいっていうか……、」

 想くんが見るからに慌てふためいている。まぁ、別に運転なんてどっちでもいい。想くんの運転で車は発進した。いつも俺が運転するから変な気分だ。助手席から想くんの横顔を眺める。本当にいつまで経ってもかっこよくて少し腹が立つ。

 「そんなに見つめてきて、なに?」

 想くんとバックミラー越しに目が合って急いで目線を逸らした。

 「そうだ。行きたいとこに行く前に、寄るところあるから少し寄ってきていい?そこ駐車場ないから車で待っててほしいんだ。」
 「全然いいよ。待ってる。」

 久しぶりの2人きり。2人で好きな音楽をかけながら、ゆっくり目的地までむかった。煌びやかな街中。高級そうなブランドが立ち並ぶ通りの路上に車を停め、想くんは外に出た。「行ってくるね。」と言って手を振り路上裏へ消えてしまう。
 こんな少しでも離れても寂しいと感じる。学生のころ離れているのがほとんどだったのに、あの時はどうしていたんだろう。
 そう長くはないと思っていたものの、想くんの用事は10分もかからなかった。戻ってきた想くんの手には何も持たれていなかった。

 「何の用だったの?」
 「ん?そのうちわかるよ。」

 そう言ってまた車を走らせた。何考えてるかわかんないけど、そのうち分かるならまあいいか。車に乗っていると揺れが気持ちよくって、朝が早かったせいもあるのか、気がついたら寝てしまっていた。

 「悠瑠くん、悠瑠くん。」

 目的地に着いたのか、体をゆさゆさと揺さぶられた。

 「…ん。想くん、おはよぉ。ごめん、俺寝ちゃってた。」
 「可愛い悠瑠くんの寝顔見れたからいいよ。」

 軽くおでこにキスを落とされ、甘い言葉を囁かれる。こいつはこんな恥ずかしいことをサラッと言う、本当にずるいやつ。

 「そうだ、悠瑠くん着いたよ。」

 車から降りて大きく息を吸うと、磯の香りが鼻いっぱいに広がった。想くんと並んで少し歩くと、目の前に綺麗な海が広がっていた。まだ海開きはされておらず、そのおかげか、休日の昼前だというのに人がいない。

 「やっば、すげぇ!!」

 年甲斐もなく、綺麗な海を目の前にテンションが上がる。でも、この場所になぜか見覚えがあった。

 「想くんも。早く。」

 靴を脱ぎ、浅瀬をピチャピチャと歩く。水が少し冷たくて、それでも心地がよかった。想くんの方を見ると、1歩も動かず、こちらをじっと見ているだけで呼んでもなかなか来ない。
 俺は想くんに近づいて、顔を覗き込んだ。

 「想くん、どうした?」
 「……昔のこと、思い出してた。」

 少し微笑むと、俺の手を引っ張って海へと足を進めた。

 「悠瑠くん覚えてる?俺らが高校生の時、ここ連れてきてくれたの。」

 あぁ、ここはあの海だったのか。ここで想くんの想いを断ち切ろうとした。でもそれも出来なくて何回も何回も泣いたっけ。

 「覚えてる。……でも、今となってはいい思い出だな。」
 「ねぇ、悠瑠くん。そのいい思い出、上書きしていい?」

 想くんが手を繋ぎながらこっちを向くもんだから、反射的に俺も想くんの方を向いた。想くんの真剣な表情に緊張が走る。
 上書きするってどういうことだ。今となってはいい思い出だと感じているものを上書きしたいだなんて、別れるとか言われたらどうしよう。想くんは真剣なのに、俺の頭の中は、マイナスなことしか頭に流れてこない。

 「あの…」
 「待って!!」

 怖くなって想くんの言葉を止めた。でも、想くんの決断を受け入れたいとも思うから、1回深呼吸してから想くんの目を見つめた。もういい思い出もいっぱい貰えた。それだけで俺は生きていけるはずだ。
 どんな言葉でも、想くんの決定を受け入れよう。

 「よし、いいよ。」
 「……俺、大人になったよ。もう働いてもいるし、1人で何でもできるし、悠瑠くんも守れる、そんな大人になった。」

 思っていた言葉と違う言葉をかけられ、むしろ、どう反応すればいいのか分からなかった。

 「覚えてる?高校生の時の約束。」

 想くんが言った約束。そんなの1個しか無い。あの夏の日差しが強い日、俺に約束してくれたこと。気づいたら、顔が熱くなった。

 「悠瑠くん。」

 想くんはポケットから何か取り出して右手に握り、左手で俺の左手を握る。

 「俺と結婚してください。」

 俺の左手にはキラリと光る指輪がはめられた。嬉しくて涙が溢れた。小さい頃からずっと、ずっと、この日を待っていたから。ずっと夢見ていた。

 「俺なんか、で、いいの?」
 「悠瑠くんだからいいんだよ。それに離さないでって言ったのは悠瑠くんだよ。」

 なんておちゃらけて笑う想くんの首に腕を回し、思い切り抱きついた。すると、勢いが余りすぎて後ろに倒れ、2人して海にバシャンと入ってしまった。
 ずぶ濡れになりながらも2人で笑い、自然と目と目が合う。

 「想くん、約束をまもってくれてありがとう。」
 「こちらこそ、お嫁さんになるって約束、まもってくれてありがとう。」

 俺は想くんに軽くキスをした。いつもなら外だし誰かに見られたらなんて考えてしまうけど、今日だけは、今だけは、想くんにキスをしたくてたまらなくなった。

 「愛してる。」

 俺たちはきっと何があっても離れない。そんな気がするくらいに自信がもてた。本当に結婚なんて出来ない、そんなことは分かっていた。けど、形で、行動で、言葉で、表してくれることが、こんなにも幸せな事だと知らなかった。

 いつまでも濡れているままだと風邪をひくからと、海から出て、近くの堤防に腰掛けた。

 「綺麗。」

 左手の薬指に光る指輪を眺めた。何も無かった指にはめられた指輪は、小さいダイヤがキラリと綺麗だった。
 
 「喜んでもらえてよかった。」
 「こんなのいつ用意したの?」
 「さっきだよ。」

 さっき……?
 頭をフル回転させ、想くんが指輪を準備出来る時間を探した。すると、先程の10分弱の時間と、想くんの「そのうち分かる。」という言葉が思いついた。

 「え、買ったってこと?」
 「んー、買ったというか、予約してたのを受け取ったかな。」

 えぇ、そんな時間いつあったんだ。というか、いつから準備してたんだろう。俺は、何もあげられていないのに。

 「っくしゅん。」
 「悠瑠くん、ごめん。いくら日差しがあると言っても濡れたら寒いよね。そろそろ車に戻ろっか。」

 ほとんど乾いている髪の毛と服。それでも想くんは、「大丈夫?」と、俺の体を擦った。全然寒くないのに。

 「そうだな。そろそろお昼でも食いに行こう。」

 車に戻る途中、想くんにお腹が空いたことを伝えれば、思い出したように、「あっ」と呟いた。

 「ランチも予約してるんだ。」

 こいつはどこまで用意周到なんだろう。いつも俺が行きたいところを優先してくれるから、俺に内緒で選んでくれたことが嬉しかった。

 移動中、左手の輝きに顔がニヤける。

 「また指輪見てる。」
 「だって嬉しいんだもん。」

 ずっと好きだった人とパートナーになれるんだから。これ以上嬉しいことはないだろう。
 想くんが車で向かっているのは、これまた街中で、着いた場所はとても高そうなホテルだった。

 「え、想くん。ここ入んの?こんな格好で?」

 デートということもあり、ちゃんとオシャレはしてきたけど、ここはスーツ来るような見た目のホテル。いかにも裕福そうな人ばかりで、少し萎縮してしまう。

 「大丈夫、中で着替えるんだから。」

 なんで?
 俺が想くんに確認する隙もなく、訳の分からないまま、想くんに手を引かれ中に入っていった。

 「いらっしゃいませ。日下部様、渡里様。」

 中に入ると拓也が出迎えてくれた。
 ……拓也?

 「えぇぇぇぇ!!!な、なんで、拓也?」
 「俺、ここのマネージャーだから。」

 どういう事だ、拓也がここのマネージャーなのはわかった。前に、ホテルのマネージャーを任せられたっていうのは聞いていたから。それでも何故ここに連れてこられたのか。ランチと言うわりには、ランチが出来るところが見当たらない。

 「とりあえず、お前らシャワー浴びてこい。本当はその日に浴びるのは良くないんだけど、なんか海水でベトベトらしいし、部屋とってるから先行ってこい。」

 そう言われて、鍵を投げられ、部屋に連れていかれる。シャワーを浴びて、出てくると想くんが居なくて、すぐ違う部屋にすぐ連れていかれた。連れていかれた先は準備室と書かれてあり、ホテルマンに渡された服は、タキシードだった。カッチリしたタキシードではなく、少しくだけたカジュアル要素があった。とりあえず、用意された物を着て外に出ると、髪の毛をセットされ、顔も少し化粧をされた。
 準備が終わってすぐ、トントンッと扉を叩く音が鳴った。「どうぞ」と声をかけると想くんが入ってきた。俺と似たような恰好。でも、俺よりバチッと決まった姿の想くんはいつも以上に、

 「かっこい……。」

 つい声に出てしまったと急いで口元を抑えたが遅かった。目の前の男がニヤニヤしながらこちらに近づく。馬鹿にされると思ったが優しく笑い、甘い目で俺を見つめる。

 「やっぱり似合ってる。可愛いしかっこいい。」

 その言葉で自分の顔が赤くなっているのがわかった。俺はこの男に何度照れさせられたらすむのだろうか。いつになれば、この甘い言葉になれるのだろうか。

 「この格好どういうこと?説明して。」
 「あ、もう時間だ。早く行こう悠瑠くん。」
 「え、ちょっと!想くん!」

 説明してと言ったのに、はぐらかされ、また手を引っ張られてどこかに連れていかれる。俺、なんだか今日振り回されっぱなしだ。でも、振り回されても、今日は楽しい気分でしかない。

 「ほら、悠瑠くん。俺と腕組んで。」

 言われるがまま、想くんの腕の隙間に自分の腕を通し、扉の前に立つ。こんなの何だか……

 「結婚式みたいじゃん。」
 「そうだよ。」

 心の中で言ったはずの言葉は、また声に出ていたらしく、想くんは俺の独り言に返事をしてくれる。
 それよりも想くんの返答が気になった。……結婚式?
 
 悩んでいたら目の前の扉がバンッと開いた。そこに広がるのは小さな結婚式場。浩平や拓也、奏志、俺と想くんの両親、その他には俺たちの関係を知っている会社の同僚。
みんな、「おめでとう」と口々に言っている。目の前にある真っ赤なバージンロードを、1歩1歩、想くんと2人で歩いた。
 俺って幸せ者すぎだ。同性の恋愛は偏見の目にあってもおかしくないのに、こんなに多くの人に祝われて。

 「皆さん、集まって頂きありがとうございます。」

 1番前まで着くと、振り返り想くんが話し出した。

 「本日は結婚式という名目もありますが、今回は皆様に承認になって頂きたいです。」

 ホテルマンが2枚の紙を持って俺たちの方へ寄ってくる。1枚は婚姻届、もう1枚は宣言書と書いてある紙をみんなに見せている。

 「俺たちは法律的に夫婦になれない。でも、事実婚って形なら夫婦になれる。パートナーシップ制度によって強い糸で結ばれる。夫婦になるこの瞬間を、皆様に承認者としてご立会をお願いしたい。」

 その場でペンを取り出し、想くんは自分で記入欄を埋め出した。そして、自分のところを書き終わると俺にペンと紙を渡してきた。

 「これにサインしたら悠瑠くんは本当に俺のそばから離れられなくなる。それでもいい?」
 「さっき答えたろ。お前と結婚したいって、お前と生きていきたいって。」

 俺はすぐペンと紙を取って、残りの記入欄を埋めた。男なのに妻になる人の欄に名前を書くのは変な気がした。

 「今回は人前式ということで、お2人の決意を、皆さまから代表し、この方に確認していただきます。」

 司会の方が言い終えると、客席から1人男が立った。その男は俺らの方へ向かってきて、俺に微笑みかける。

 「浩平……。」
 「代表して、俺に確認させてください。」

 浩平は台本を取り出し、小さく深呼吸をした。

 「まず、日下部想さん。あなたは病める時も健やかなる時も、渡里悠瑠さんをパートナーとして尊重すること、……そして、悠瑠を泣かせない、幸せにすると誓いますか?」
 「はい、誓います。」
 「では、渡里悠瑠さん。あなたは病める時も健やかなる時も、日下部想さんをパートナーとして尊重すること、……そして、これからは素直になることを誓いますか?」
 「誓います。」

 会場は拍手で包まれた。俺の両親も、想くんの両親も涙を流していた。俺は最後まで想くんと共に生きていくことを、みんなの前で誓った。どんな時でも絶対お互いのそばにいる。

 俺たちの最後の大きな約束だ。

 ◇◇◇

 あの頃を思い出していると涙が出てくる。開いていたアルバムを閉じた。これもまだ2年前と最近のことなのに懐かしく感じる。

 「ママ、公園行こうよ。」
 「あ、うん。行こう行こう。」

 最近変わったこと。それは俺たちの間に息子が出来たこと。もちろん俺が産んだ訳じゃなくて、孤児院の前を想くんとたまたま通った時に、楽しくはしゃぐ子どもたちの中で1人ぽつんといた男の子のことが気になった。それがこの大輝だった。そのままじっと見ていると、大輝はこちらに寄ってきて、「僕と遊んでくれる?」と言われた。2人で「いいよ。」と、返事をして孤児院の方に了承を貰い中に入って大輝と遊んだ。
 夕方になりそろそろ帰ろうとした頃、大輝が急に俺に抱きついてきた。

 「まだ一緒に居たい…。僕のママとパパになって。」

 大きな目でうるうるとこちらを見られると昔の自分と重なってしまった。俺は記憶ない時から母さんと父さんの子だったけど、この子は俺たちを選んでくれたんだと思った。それでも、俺の経験上、両親2人とも男だと虐められる可能性もある。それに、想くんは子どもが要らないって思ってるかもしれないし。孤児院から引き取るって、お互いの両親がなんて言うか。

 「その子、引き取ろう。」

 俺が悪い思考ばかり回していたら、後ろから勢いよく言葉が放たれた。

 「いいの?」
 「血が繋がってなくても本当の家族になれるし、俺はあの日、こんな親子になれたらなんて思ったよ。そして、俺たちならその子を本当の子どもとして大事に出来ると思ってる。」

 この人が味方なら何でも乗り越えられる気がした。親に反対されても、世の中の目がこの子に鋭く刺さっても、2人で守っていける、そんな自信が湧いてきた。

 「じゃぁ、俺たちの子になる?」
 「いいの?!」

 孤児院の方に引き取りたいと伝え、諸々の手続きを行った。その日中という訳には行かなかったが、1ヶ月以内で引き取ることが出来た。大輝は一応俺の戸籍に入ることにした。引き取ってすぐはあまり外に出るのも慣れていなかったが、今は公園に行こうと自分で言うくらい外に慣れてしまった。
 実際、俺の子どもの頃より同性愛というものが寛容になってきた世の中は、俺たちを嘲笑う人も怪訝な態度を出す人もおらず、いいご近所さんに恵まれていた。

 「大輝、じゃぁパパ呼んできて。」
 「パパ、一緒に公園行こう。」
 「よっしゃ、久々いっぱい遊ぼう。」

 ソファでスマホを触っていた想がこっちに来た。3人で仲良く手を繋いで公園まで向かう。大輝は最近近所の子どもとも仲良くなったみたいで、公園に着くとそうそうに同い年くらいの子たちの元へ走っていく。
 俺たちは2人でベンチに腰かけて遊んでいる大輝を眺めてる。

 「さっきアルバム見てたんだけどさ、」
 「あぁ、だから悠瑠泣いてたのか。」
 「うるさい。俺が言いたいのはそうじゃなくてさ。俺、自分がこんな幸せになれるって、あの時想像も出来なかった。今なんかさ、こうして想の横にいて大輝までいてさ、……ほんとに幸せだなって感じる。」

 横に座る想の肩に頭を乗せた。想は静かに俺の指に、指を絡めてくる。

 「俺も今超幸せだよ。」

 幼い頃の約束なんて覚えてもないことが多いなのに、お互い覚えていて結婚までして、子どもまで出来て、誰がこの結末を想像していただろうか。

 「ママ、知らない子いるよ?」

 俺たちの近くに寄ってきた大輝が1人でベンチに座る男の子に指を指す。

 「ほんとだな。大輝、お話してみたら?」
 「うん、そうするね!!」

 そう言って走って男の子の元へ向かう。

 「俺、渡里大輝!君はお名前なんて言うの?」
 「……伊吹、澄晴。」
 「すーくん、一緒に遊ぼう!」

 大輝は澄晴という男の子の手を引き一緒に連れ出した。近所の子たちの輪の中に入れ、一緒に遊び出す。

 「あぁいうところ、あの時の想に似てる。」
 「常に振り回されてるのは俺の方だけどね。そんなとこも好きだけど。」

 長い間いると、こいつのこういう所にも慣れたと思いたい。公園に来たのは3時頃、今の時刻は夕方の5時を指そうとしていた。

 「大輝、そろそろ帰るよ!」
 「はぁい!すーくんまたね。」

 大輝が手を振ると、澄晴は泣き出した。

 「え、え、どしたの?僕やなことした?」
 「俺、ここいるの今日までで、明日引っ越しちゃうの…。大ちゃんのこと好きなのに、離れ離れやなの。」

 大泣きする澄晴に慌てる大輝。行ってあげた方がいいと思い近寄ろうと思うと、想に止められた。首を横に振られ、ただただ見守ることしか出来なかった。

 「すーくん、泣かないで、よしよし。」

 大輝は、澄晴の頭を優しく撫でる。それでも泣き止まない澄晴に大輝は困っていたが、何かを思いついたように、「あっ!」と大きな声を出した。

 「わかった、すーくん。こうしよう。」

 泣きながら澄晴はこちらに目を向けた。

 「大人になったらすーくんと結婚する!だから離れ離れじゃないよ、泣かないで。」
 「男の子同士は結婚できないんだよ。」
 「出来るよ。だって俺のパパとママは男の子だけどずっと一緒って言ってたもん!結婚ってね、ずっと一緒にいる約束なんだのよ!」
 「約束?」
 「うん、だからすーくん、もう泣かないで。」
 「約束ね。」

 2人は小指で指切りげんまんと言って約束をした。

 「ははっ、こういうとこは悠瑠に似てるね。」
 「確かにな。」

 俺と想の物語は、まだ終わらないのかもしれない。