悠瑠side
いつも通り日下部が通るのを窓から見る。先程の唇の感覚が忘れられなくて、勝手に顔がにやけてしまう。
「なんか、思ったより順調そうだな。」
俺を見ながら拓也がそう言った。
「うん、俺今すげぇ幸せ。……2人ともいつもごめんな、勉強もあんのに、俺の私情に付き合わせちゃって。」
「何言ってんの、悠瑠の話を俺らが聞きたいだけだからさ、遠慮なく話してよ。」
「そうそう、浩平はそんなに勉強しなくても、もう志望校A判定だしね。」
「拓也も指定校狙いだもんね。」
そうだ、俺らは受験生で来年にはこの学校を出ていかなければならないんだ。俺と日下部の関係がこの何とも言えない関係のままで終わることなんてない。どっちかには決めなければならないのだ。
また窓の外に目線を移すと、荷物を持って全力で走る日下部の姿。こちらには見向きもせず校門へ向かった。
「あれ、日下部くん行っちゃったの?」
「うん、なんか用事でもあったのかな。」
なんだか胸騒ぎがした。不運なのか幸運なのか、俺らの教室からは校門が見える。女の子と日下部が話していて、女の子の方が日下部に抱きついた。日下部もそれを受け入れた。
「えっ……?」
あれが日下部の言っていた心に決めた相手?あの女の子が…。
もう流しすぎて出てこないと思っていた涙も、やっぱり悲しいことが起きると出てくるようだ。人間の構造って凄いんだな。目の前の光景に目を逸らしたいのに奪われて、ただ涙を流すことしか出来なかった。
「見ない方がいいよ。」
浩平は俺の後ろから両手で俺の目を隠してくれた。俺が見なくていいように。
さっきまでの夢のような時間は、俺の見た都合のいい幻だったのだろうか。本当は、あの時日下部なんていなくて、俺は夢を見ていたのだろうか。
さっきまであんなに晴れていた空が、今は曇っていた。
次の日、日下部のために遅らせていた電車をいつも通りの時間に戻して、日下部と会わないように学校へ向かった。でも、最近の習慣というものはこわいもので、無意識に窓から外を覗いてしまっていた。
校門から入っていく生徒をボーッと眺める。すると、日下部と目が合った。まるで入学式の日のようだった。あの日のことをなかったことにしたくて、目が合う日下部を無視した。
こんなことをしても、日下部への気持ちは無くならない。隣にいるだけでいいなんて、全くの嘘だった。お前の恋人になれない隣ほど虚しいものはない。彼女が出来たと喜ぶ彼の顔を笑って見れるほど、俺は強くない。
でも、急に目の前から居なくなっても後味悪いかな。明日だけ会おう、明日で最後にしよう。
そしてもうなかったことにしよう。俺たちの再会も、あの時の約束も。
◇◇◇
次の日の朝、覚悟を決めて学校に向かう。
いつも日下部が待ってくれている時間の電車。昨日のこともあるし、いるかも分からない。けど、日下部はいた。俺の気持ちなんて露知らず、俺を見てパァっと表情が明るくなった。
そんな期待するような行動取らないで欲しい。辛いのに、日下部を見るとやっぱり嬉しくて、なんだか複雑な気分だ。
「昨日、悠瑠くん朝はいたのに教室行ったら体調不良で帰ったって聞いて心配しました。」
あぁ、昨日は勝手に帰ったのに拓也が気を利かせてくれたのだろう。体調なんて悪くない。ただの恋煩いだ。
「ごめん、もう大丈夫だから。」
なんだか日下部の方を見れずにいた。
「なぁ、日下部。お願いがあるんだ。」
「何ですか?」
今日が最後。今日だけだから、あの子のものになる前に、彼を独り占めさせてください。
「今日学校サボらねぇ?」
「え、いつもはダメって言うのにどうしたんですか?」
「今日だけはいいかなって、……ダメかな?」
「……1日くらいズルしてもいいですよね。」
「行きましょう!」と言って俺の手を引き、乗ってきた電車と同じ電車に飛び乗った。俺は静かに携帯のメッセージを開く。3人のグループで一言メッセージを送る。
“今日で終わりにする。”
なんか最後は海を見たくて、二人で電車に乗って海まで来た。日下部には何も伝えず、俺の独断だけで決めた。
平日だし、朝ということもあって人は全くと言っていいほどいなかった。
「んーー、気持ちいぃ!」
大きく伸びをすると、隣で日下部も大きく伸びをした。
「ほんとだ。気持ちい。」
キラキラとした海を見る横顔は、どんなものより綺麗に感じた。
「日下部、こっち来て。少し海に入ろう。」
靴と靴下を脱ぎ、先に海に入った。夏と言うにはまだ早い時期で、水が少し冷たかった。「日下部も。早く。」と急かすと、日下部も脱ぎ海に入った。
「うわ、思ったより冷たいね。」
「うん。でも、気持ちいでしょ?」
ザザァと波の音を聞きながら、俺たちは浜辺を二人で散歩した。二人で散歩しているとコツンコツンと日下部と俺の手が当たる。今日で終わり、だから今日だけは許されるのではないだろうか。
日下部の手に指を絡めて手を繋いだ。
「今日だけ…いい?」
「もちろん、いいですよ。」
日下部が許してくれることが嬉しかった。好きで好きでたまらない。12年間思い続けた彼とやっと出逢えたのに、手放したくないけど、手放さないといけない。
この時間がずっと続けばいいのに。再会してからずっと思っていた。終わりはもうすぐそこまで来ているのに。今日終わらせなければならないと思うほど、この手を離したくない。
「悠瑠くん?」
「……一昨日の女の子が心に決めた子なの?」
聞いてしまった。ずっと気になっていたこと。一昨日、あの光景を見てからなかなか寝付けなかった。
怖くて日下部の顔が見れなかった。繋いでいる手に力が入ったのが自分でもわかる。
「そうなんだよ!」
嬉しそうに答える日下部は、その子のことを本気で好きなのかとか、本当に嬉しそうだななんて考えていたが、その後の日下部の話が頭に入ってこなかった。
「ちょうど夏にね、昔ばあちゃんの家に行った時に、近くの池で出会った女の子なんだ。その時結婚するって約束してくれたんだ。それで、一昨日会いに来てくれてさ…、」
その約束の子って俺のことだよな。でも、女の子って言ってるし俺とは別か。いや、そんなことあり得るのか。時期も場所も被っているとかあるのか。
本当にその子が想くんの約束の子なの。
「その子、本当に約束の子なの?」
「えっ、根拠はないけど、嘘つく理由も思いつかないしね。それに、初めてなんだ。約束したって言ってくれた子が俺の元に来てくれたの。」
根拠はないという日下部の言葉に、苛立ちと悲しみが同時に襲ってきた。本当は俺なのに、俺がずっとお前を探していて、お前が探してるのもお前なのに。
泣きそうになったけど、最後ぐらいは笑って終わろうと上を向いた。
「日下部って、なんか、騙されやすそうだな。」
「え、急になんで?」
「いや、……なんでもない。」
俺の今の精一杯の強がり。大好きな人が幸せでありますように。
日下部と繋いでいた手をスルリと離した。暖かかった片手は離れたことで、元より冷たく感じた。
「好きになってごめんね。」
“今日だけ”、この魔法の言葉はもう終わり。最後に1度だけ伝えることは許されるだろうか
日下部に手を差し出すと、頭に?を浮かべて俺の差し出した手を受け入れるように手を重ねた。日下部の手を引き抱きしめた。抱きしめたら、好きな気持ちは溢れていく。だけど、大丈夫。この気持ちは頑張って捨てる。今日で終わり、今日だけ、今日までだから。
「想くん、愛してたよ。」
許可も取らず静かに日下部にキスをした。チュッというリップ音は波の音にかき消された。トンっと軽く日下部の胸板を押して体を離す。もう俺が二度と戻って来れないように、もう目の前の愛しい人に会うことはないだろう。
「今日は着いてきてくれてありがとう。じゃぁな、幸せになれよ!」
今出来る1番の笑顔を日下部に送る。最後に俺を思い出す時は笑ってる顔がいいから。ここ最近は泣いてる姿ばかり見せてしまったから。最後くらいは笑いたい。
向かい合っていては区切りがつかないと、振り返り、日下部に背中を向ける。顔に海水でもついたのだろうか。口に入ってきた水は少ししょっぱい。
日下部と二人で歩いてきた浜辺を、一人で歩く。浜辺はさっきより広く感じた。
あぁ、終わったんだな、俺の初恋。拗らせて、大事にしてきたこの想いはいとも簡単に終わってしまう。
日下部は、俺を追いかけては来なかった。それはそうだよな、日下部にとっての約束の子と出会ってしまったんだから。
俺にはもう微笑まないでくれ。この溢れて止まない気持ちに、更に気持ちを注いで溢れさせないで。もうこの気持ちも消してしまわなければならないから。
明日から俺は俺でいられるのだろうか。想くんを探すってだけで毎日生きて、再会する楽しみを失った俺はどうなってしまうのだろう。これ以上考えるのはやめよう。もう終わったことだし、今を生きなければならない。窓の外を見るのも、朝の電車を遅らせるのも、わざわざ1年の教室の前を通るのも、もうやめよう。
連絡先を消そうと思いたった時、連絡先を交換していないことを思い出した。結局それまでの関係だったんだな。
3人のグループチャットから通知がなる。
“俺たちは悠瑠の味方だから”、2人からのメッセージだった。
本当に2人には敵わない。俺が欲しい言葉も、タイミングも全てを分かっている。返事を返そうとした時、電話がかかってきた。画面には拓也の文字が出ていた。
「もしもし。」
「悠瑠。」
拓也の声を聞くと、なんだか安心したのか、一気に涙が溢れた。
「終わっちゃった。もう……、本当に終わっちゃった。」
明日から切り替えるから、今日だけは想くんを想って泣いてもいいだろうか。
いつも通り日下部が通るのを窓から見る。先程の唇の感覚が忘れられなくて、勝手に顔がにやけてしまう。
「なんか、思ったより順調そうだな。」
俺を見ながら拓也がそう言った。
「うん、俺今すげぇ幸せ。……2人ともいつもごめんな、勉強もあんのに、俺の私情に付き合わせちゃって。」
「何言ってんの、悠瑠の話を俺らが聞きたいだけだからさ、遠慮なく話してよ。」
「そうそう、浩平はそんなに勉強しなくても、もう志望校A判定だしね。」
「拓也も指定校狙いだもんね。」
そうだ、俺らは受験生で来年にはこの学校を出ていかなければならないんだ。俺と日下部の関係がこの何とも言えない関係のままで終わることなんてない。どっちかには決めなければならないのだ。
また窓の外に目線を移すと、荷物を持って全力で走る日下部の姿。こちらには見向きもせず校門へ向かった。
「あれ、日下部くん行っちゃったの?」
「うん、なんか用事でもあったのかな。」
なんだか胸騒ぎがした。不運なのか幸運なのか、俺らの教室からは校門が見える。女の子と日下部が話していて、女の子の方が日下部に抱きついた。日下部もそれを受け入れた。
「えっ……?」
あれが日下部の言っていた心に決めた相手?あの女の子が…。
もう流しすぎて出てこないと思っていた涙も、やっぱり悲しいことが起きると出てくるようだ。人間の構造って凄いんだな。目の前の光景に目を逸らしたいのに奪われて、ただ涙を流すことしか出来なかった。
「見ない方がいいよ。」
浩平は俺の後ろから両手で俺の目を隠してくれた。俺が見なくていいように。
さっきまでの夢のような時間は、俺の見た都合のいい幻だったのだろうか。本当は、あの時日下部なんていなくて、俺は夢を見ていたのだろうか。
さっきまであんなに晴れていた空が、今は曇っていた。
次の日、日下部のために遅らせていた電車をいつも通りの時間に戻して、日下部と会わないように学校へ向かった。でも、最近の習慣というものはこわいもので、無意識に窓から外を覗いてしまっていた。
校門から入っていく生徒をボーッと眺める。すると、日下部と目が合った。まるで入学式の日のようだった。あの日のことをなかったことにしたくて、目が合う日下部を無視した。
こんなことをしても、日下部への気持ちは無くならない。隣にいるだけでいいなんて、全くの嘘だった。お前の恋人になれない隣ほど虚しいものはない。彼女が出来たと喜ぶ彼の顔を笑って見れるほど、俺は強くない。
でも、急に目の前から居なくなっても後味悪いかな。明日だけ会おう、明日で最後にしよう。
そしてもうなかったことにしよう。俺たちの再会も、あの時の約束も。
◇◇◇
次の日の朝、覚悟を決めて学校に向かう。
いつも日下部が待ってくれている時間の電車。昨日のこともあるし、いるかも分からない。けど、日下部はいた。俺の気持ちなんて露知らず、俺を見てパァっと表情が明るくなった。
そんな期待するような行動取らないで欲しい。辛いのに、日下部を見るとやっぱり嬉しくて、なんだか複雑な気分だ。
「昨日、悠瑠くん朝はいたのに教室行ったら体調不良で帰ったって聞いて心配しました。」
あぁ、昨日は勝手に帰ったのに拓也が気を利かせてくれたのだろう。体調なんて悪くない。ただの恋煩いだ。
「ごめん、もう大丈夫だから。」
なんだか日下部の方を見れずにいた。
「なぁ、日下部。お願いがあるんだ。」
「何ですか?」
今日が最後。今日だけだから、あの子のものになる前に、彼を独り占めさせてください。
「今日学校サボらねぇ?」
「え、いつもはダメって言うのにどうしたんですか?」
「今日だけはいいかなって、……ダメかな?」
「……1日くらいズルしてもいいですよね。」
「行きましょう!」と言って俺の手を引き、乗ってきた電車と同じ電車に飛び乗った。俺は静かに携帯のメッセージを開く。3人のグループで一言メッセージを送る。
“今日で終わりにする。”
なんか最後は海を見たくて、二人で電車に乗って海まで来た。日下部には何も伝えず、俺の独断だけで決めた。
平日だし、朝ということもあって人は全くと言っていいほどいなかった。
「んーー、気持ちいぃ!」
大きく伸びをすると、隣で日下部も大きく伸びをした。
「ほんとだ。気持ちい。」
キラキラとした海を見る横顔は、どんなものより綺麗に感じた。
「日下部、こっち来て。少し海に入ろう。」
靴と靴下を脱ぎ、先に海に入った。夏と言うにはまだ早い時期で、水が少し冷たかった。「日下部も。早く。」と急かすと、日下部も脱ぎ海に入った。
「うわ、思ったより冷たいね。」
「うん。でも、気持ちいでしょ?」
ザザァと波の音を聞きながら、俺たちは浜辺を二人で散歩した。二人で散歩しているとコツンコツンと日下部と俺の手が当たる。今日で終わり、だから今日だけは許されるのではないだろうか。
日下部の手に指を絡めて手を繋いだ。
「今日だけ…いい?」
「もちろん、いいですよ。」
日下部が許してくれることが嬉しかった。好きで好きでたまらない。12年間思い続けた彼とやっと出逢えたのに、手放したくないけど、手放さないといけない。
この時間がずっと続けばいいのに。再会してからずっと思っていた。終わりはもうすぐそこまで来ているのに。今日終わらせなければならないと思うほど、この手を離したくない。
「悠瑠くん?」
「……一昨日の女の子が心に決めた子なの?」
聞いてしまった。ずっと気になっていたこと。一昨日、あの光景を見てからなかなか寝付けなかった。
怖くて日下部の顔が見れなかった。繋いでいる手に力が入ったのが自分でもわかる。
「そうなんだよ!」
嬉しそうに答える日下部は、その子のことを本気で好きなのかとか、本当に嬉しそうだななんて考えていたが、その後の日下部の話が頭に入ってこなかった。
「ちょうど夏にね、昔ばあちゃんの家に行った時に、近くの池で出会った女の子なんだ。その時結婚するって約束してくれたんだ。それで、一昨日会いに来てくれてさ…、」
その約束の子って俺のことだよな。でも、女の子って言ってるし俺とは別か。いや、そんなことあり得るのか。時期も場所も被っているとかあるのか。
本当にその子が想くんの約束の子なの。
「その子、本当に約束の子なの?」
「えっ、根拠はないけど、嘘つく理由も思いつかないしね。それに、初めてなんだ。約束したって言ってくれた子が俺の元に来てくれたの。」
根拠はないという日下部の言葉に、苛立ちと悲しみが同時に襲ってきた。本当は俺なのに、俺がずっとお前を探していて、お前が探してるのもお前なのに。
泣きそうになったけど、最後ぐらいは笑って終わろうと上を向いた。
「日下部って、なんか、騙されやすそうだな。」
「え、急になんで?」
「いや、……なんでもない。」
俺の今の精一杯の強がり。大好きな人が幸せでありますように。
日下部と繋いでいた手をスルリと離した。暖かかった片手は離れたことで、元より冷たく感じた。
「好きになってごめんね。」
“今日だけ”、この魔法の言葉はもう終わり。最後に1度だけ伝えることは許されるだろうか
日下部に手を差し出すと、頭に?を浮かべて俺の差し出した手を受け入れるように手を重ねた。日下部の手を引き抱きしめた。抱きしめたら、好きな気持ちは溢れていく。だけど、大丈夫。この気持ちは頑張って捨てる。今日で終わり、今日だけ、今日までだから。
「想くん、愛してたよ。」
許可も取らず静かに日下部にキスをした。チュッというリップ音は波の音にかき消された。トンっと軽く日下部の胸板を押して体を離す。もう俺が二度と戻って来れないように、もう目の前の愛しい人に会うことはないだろう。
「今日は着いてきてくれてありがとう。じゃぁな、幸せになれよ!」
今出来る1番の笑顔を日下部に送る。最後に俺を思い出す時は笑ってる顔がいいから。ここ最近は泣いてる姿ばかり見せてしまったから。最後くらいは笑いたい。
向かい合っていては区切りがつかないと、振り返り、日下部に背中を向ける。顔に海水でもついたのだろうか。口に入ってきた水は少ししょっぱい。
日下部と二人で歩いてきた浜辺を、一人で歩く。浜辺はさっきより広く感じた。
あぁ、終わったんだな、俺の初恋。拗らせて、大事にしてきたこの想いはいとも簡単に終わってしまう。
日下部は、俺を追いかけては来なかった。それはそうだよな、日下部にとっての約束の子と出会ってしまったんだから。
俺にはもう微笑まないでくれ。この溢れて止まない気持ちに、更に気持ちを注いで溢れさせないで。もうこの気持ちも消してしまわなければならないから。
明日から俺は俺でいられるのだろうか。想くんを探すってだけで毎日生きて、再会する楽しみを失った俺はどうなってしまうのだろう。これ以上考えるのはやめよう。もう終わったことだし、今を生きなければならない。窓の外を見るのも、朝の電車を遅らせるのも、わざわざ1年の教室の前を通るのも、もうやめよう。
連絡先を消そうと思いたった時、連絡先を交換していないことを思い出した。結局それまでの関係だったんだな。
3人のグループチャットから通知がなる。
“俺たちは悠瑠の味方だから”、2人からのメッセージだった。
本当に2人には敵わない。俺が欲しい言葉も、タイミングも全てを分かっている。返事を返そうとした時、電話がかかってきた。画面には拓也の文字が出ていた。
「もしもし。」
「悠瑠。」
拓也の声を聞くと、なんだか安心したのか、一気に涙が溢れた。
「終わっちゃった。もう……、本当に終わっちゃった。」
明日から切り替えるから、今日だけは想くんを想って泣いてもいいだろうか。
