悠瑠side
「おはようございます。」
「おはよう。」
あれから更に1ヶ月がたった。相変わらず俺と日下部は毎朝一緒に登校する。日下部に振り向いてもらうため、俺が出来ることなんて限られている。気持ちを伝えるのも下手だし、行動も恥ずかしくて思うようにいかない。
けど、日下部相手なら頑張れる。なんて思って頑張ってたつもりだった。
「…俺らの関係って変わったと思う?」
日下部と下駄箱で分かれた後、自分の教室で机に突っ伏しながら2人に聞いた。
「「絶対変わってない。」」
やっぱり、傍から見てもそうなんだな。少し悲しくなるが、納得はした。俺自身、そう感じていたからだ。
「でも、日下部がこの教室来ることは多いよな。」
日下部がここに来るのは、お昼を約束している時。それか、ソウに会いに行く時。
別に俺に会いに来てくれてる訳じゃない。
恥ずかしいけど1年の教室に行ってみようかな。日下部は迷惑じゃないかな。
授業始まりのチャイムが鳴り、席に着き出す。授業が始まっても、窓から空の青さをじっと見ていた。
もうすぐあの日を思い出させる夏が来る。
昼休み、日下部とは約束していないがソウのところに行こうかと誘うため、1年生の教室まで来ていた。今まで1年生の廊下を歩くことはあったけど、1人で歩くことは初めてだった。
みんなの視線が痛い。日下部は身長が高いし目立つだろうからって何も聞かず来たが、こんなことなら日下部に何組か聞くべきだった。
でも、俺たちはまだ連絡先すら知らない。
はぁ、もう最悪。帰ろうかな。…いや、頑張るって決めたし日下部を探そう。
そう思い探していると目の前の1年生が財布を落としてしまった。
「なぁ、これ落としたんだけど。」
肩を叩き財布を渡す。そうすると、そいつは「ありがとうございます!」と言って俺の手を握ってきた。
「ちょ、ちょっと離して…!」
「俺、渡里先輩とずっと話したくて。」
手を握りながら話すこいつを振りほどこうとするも、一向に離してくれない。
日下部以外にこんな触れられるのなんて嫌だ。早く日下部のところに行かないと。
「俺、渡里先輩が大好きなんです。」
「俺はお前のこと知らないんだけど。」
「これから知ればいいんですよ!」
「人探してるから早く離せよ!」
「離したら付き合ってくれますか?」
何なんだよこいつ、全く話が通じない。きっと財布落としたのもわざとだろう。騒ぎを聞きつけ、俺たちの周りには多くの人が集まった。
男子校特有の光景だ。ただの冷やかしと、興味で見世物にされる。いつもそうだ。こいつらは何か非日常を探している。だから少しでも日常と違うことが起きればそれに群がる。今もそうだ、周りの奴らは止めるどころか「やれやれ〜」と目の前の男を煽っている。そして、次は俺だと小競り合いを始める奴らもいた。変なあの噂を訂正しなかったツケが今起こっているのか。入学して2ヶ月しか経っていないはずなのに、日下部も知っているくらいだ。他のやつらも知っているのだろう。
こんな状況で、日下部の一言が思い浮かんだ、「俺じゃなければすぐに幸せになるのに」って。俺にこいつらを好きになれっていうのか。……そんなの絶対嫌だ。
人前では絶対泣かないと目に浮かぶ涙を堪えた。心の中で目には見えない彼の名前を何度も呼んだ。
来てくれるはずもないのに。
「悠瑠くん!」
想いすぎて幻聴かと思った。でもたしかに耳に聞こえた。聞こえるはずのない彼の声がハッキリと。俺のことをこう呼ぶのはあいつしかいない。こんな状況でも日下部を思うと胸が高鳴った。
「日下部、助けて!」
俺が大声で叫ぶと人混みから日下部が見えた。今まで怖かった気持ちが、日下部を見ただけで安心に変わってしまう。俺にとって日下部の存在は偉大だ。
「渡里先輩、今だけでも俺だけを見てくれよ。」
俺の手を掴んでいる男がヤバいやつだと分かっていた。分かっていたはずなのに、日下部に目を奪われていたのがダメだったんだ。
こんなところ想くんに見られたくなかったのに。
◇◇◇
「おはようございます。」
「おはよう。」
あれから更に1ヶ月がたった。相変わらず俺と日下部は毎朝一緒に登校する。日下部に振り向いてもらうため、俺が出来ることなんて限られている。気持ちを伝えるのも下手だし、行動も恥ずかしくて思うようにいかない。
けど、日下部相手なら頑張れる。なんて思って頑張ってたつもりだった。
「…俺らの関係って変わったと思う?」
日下部と下駄箱で分かれた後、自分の教室で机に突っ伏しながら2人に聞いた。
「「絶対変わってない。」」
やっぱり、傍から見てもそうなんだな。少し悲しくなるが、納得はした。俺自身、そう感じていたからだ。
「でも、日下部がこの教室来ることは多いよな。」
日下部がここに来るのは、お昼を約束している時。それか、ソウに会いに行く時。
別に俺に会いに来てくれてる訳じゃない。
恥ずかしいけど1年の教室に行ってみようかな。日下部は迷惑じゃないかな。
授業始まりのチャイムが鳴り、席に着き出す。授業が始まっても、窓から空の青さをじっと見ていた。
もうすぐあの日を思い出させる夏が来る。
昼休み、日下部とは約束していないがソウのところに行こうかと誘うため、1年生の教室まで来ていた。今まで1年生の廊下を歩くことはあったけど、1人で歩くことは初めてだった。
みんなの視線が痛い。日下部は身長が高いし目立つだろうからって何も聞かず来たが、こんなことなら日下部に何組か聞くべきだった。
でも、俺たちはまだ連絡先すら知らない。
はぁ、もう最悪。帰ろうかな。…いや、頑張るって決めたし日下部を探そう。
そう思い探していると目の前の1年生が財布を落としてしまった。
「なぁ、これ落としたんだけど。」
肩を叩き財布を渡す。そうすると、そいつは「ありがとうございます!」と言って俺の手を握ってきた。
「ちょ、ちょっと離して…!」
「俺、渡里先輩とずっと話したくて。」
手を握りながら話すこいつを振りほどこうとするも、一向に離してくれない。
日下部以外にこんな触れられるのなんて嫌だ。早く日下部のところに行かないと。
「俺、渡里先輩が大好きなんです。」
「俺はお前のこと知らないんだけど。」
「これから知ればいいんですよ!」
「人探してるから早く離せよ!」
「離したら付き合ってくれますか?」
何なんだよこいつ、全く話が通じない。きっと財布落としたのもわざとだろう。騒ぎを聞きつけ、俺たちの周りには多くの人が集まった。
男子校特有の光景だ。ただの冷やかしと、興味で見世物にされる。いつもそうだ。こいつらは何か非日常を探している。だから少しでも日常と違うことが起きればそれに群がる。今もそうだ、周りの奴らは止めるどころか「やれやれ〜」と目の前の男を煽っている。そして、次は俺だと小競り合いを始める奴らもいた。変なあの噂を訂正しなかったツケが今起こっているのか。入学して2ヶ月しか経っていないはずなのに、日下部も知っているくらいだ。他のやつらも知っているのだろう。
こんな状況で、日下部の一言が思い浮かんだ、「俺じゃなければすぐに幸せになるのに」って。俺にこいつらを好きになれっていうのか。……そんなの絶対嫌だ。
人前では絶対泣かないと目に浮かぶ涙を堪えた。心の中で目には見えない彼の名前を何度も呼んだ。
来てくれるはずもないのに。
「悠瑠くん!」
想いすぎて幻聴かと思った。でもたしかに耳に聞こえた。聞こえるはずのない彼の声がハッキリと。俺のことをこう呼ぶのはあいつしかいない。こんな状況でも日下部を思うと胸が高鳴った。
「日下部、助けて!」
俺が大声で叫ぶと人混みから日下部が見えた。今まで怖かった気持ちが、日下部を見ただけで安心に変わってしまう。俺にとって日下部の存在は偉大だ。
「渡里先輩、今だけでも俺だけを見てくれよ。」
俺の手を掴んでいる男がヤバいやつだと分かっていた。分かっていたはずなのに、日下部に目を奪われていたのがダメだったんだ。
こんなところ想くんに見られたくなかったのに。
◇◇◇
