想side
5限の終わる時刻が近づく。
元々6限の授業には出ようと思っていたが、悠瑠くんといる時間が久しぶりに感じて、楽しくて、何だか行きたくなくなった。昨日も会っていたはずなのに。
「ねぇ、悠瑠くん。次の時間もここにいていいですか?」
「ダメだよ、まだ入学して1ヶ月過ぎだろ。」
「ちゃんと授業をうけろ。」と言う悠瑠くんは、やっぱ、先輩なんだなと感じる。もう5限をサボってしまったから一緒なのに。
「悠瑠くんだって受験生じゃないですか」
悠瑠くんは高校3年生、この時期の普通の3年生は、ピリピリと勉強ばかりしているのに、悠瑠くんはフラフラと授業もでない。勉強しなくても大丈夫なのだろうか。大学に進学する気がない……とか?
「高校の授業ってさ、おもんない。」
「…悠瑠くんって賢かったんですか?」
「うわ、ちょう失礼。まぁ、大学は行けるくらいだよ。」
さっきまでの険悪な雰囲気が嘘みたいに俺たちは元に戻ったように普通に話せた。
良かった、嫌われていなくて。良かった、また元に戻れて。
「賢い訳じゃない、親がそういう親なの。」
「将来決まってるボンボンとか?」
「…お前、俺をなんだと思ってんの。」
俺は悠瑠くんのこと全然知らないんだなって改めて思い知らされる。
初めて家族の話をされた。初めて悠瑠くんの学校生活の話を聞いた。
「ただの教育方針だよ。俺の好きな様に生きて欲しいっていう。」
「いい両親なんだね。」
「…うん、」
悠瑠くんは、嬉しそうにしていたが、目にはうっすらと涙が溜まっていた。照れてるのかなと顔を覗いてみると「見んな。」と軽く背中を叩かれてしまった。
ニャーと鳴くソウは悠瑠くんを取られて寂しいのか、悠瑠くんの足元に擦り寄っていた。
「あ、ソウごめんな。エサまだだったね。」
ソウに甘々な悠瑠くんは、声がすごく優しくなる。ソウの名前を呼ぶ度に、自分じゃないと分かっていても少し口角が上がってしまう。心臓の奥がギュッと締め付けられる。
「俺がソウにエサあげてもいい?」
「ははっ、いいよ。」
なんで笑うのか分からなかったけど、悠瑠くんにエサをもらって器にのせてあげる。すると、チビチビとエサを食べるソウを見ていて、可愛くて、そりゃ悠瑠くんもメロメロになるな、と感じた。
「ソウ、お前可愛いな。」
なんて声をかけて、ソウの頭を撫でた。
「日下部がソウって呼ぶとなんだか可愛いな。」
なんて言って笑うから、さっき笑ったのもこれが原因かとわかってしまう。たしかに、自分のことを呼んでいるように聞こえるのかと思えて少し恥ずかしい。
「こんな名前付けたのは悠瑠くんでしょ。」
「……この名前が良かったんだよ。ソウも喜んでるし。」
悠瑠くんが頭を撫でる方が、ソウは喜んでいるように見えた。ソウも甘えた声で鳴き、夢中で食べていた器から顔を外し、悠瑠くんの元に擦り寄った。
「ソウは俺より悠瑠くんの方が好きだもんね。」
「そりゃ、お前よりいる時間が長いんだから。」
悠瑠くんの真似して頬をプクりと膨らませた。悠瑠くんはそんな俺を見て声を出して笑いだした。
「そ、そんな笑わなくても……。」
「想くん、可愛い。」
「……へっ?」
悠瑠くんは気づいてないみたいだ、俺の事名前で呼んだこと。顔が一気に熱くなる。脈拍が早くなる。ドクドクと心臓がうるさい。
「何で赤くなってんの?熱?」
「いや、なんでもないです。」
「なんだよ。」と言って口を尖らせてソウに構う悠瑠くん。何だか頭が重たくなって悠瑠くんの肩に頭を乗せた。こんなことしてはいけないなんて思っていても、この優しい先輩の弱みにつけこんでしまう。
「え、日下部……?」
「少しだけ。」
悠瑠くんは俺のことを拒まず、そのまま過ごしていると、5限終了のチャイムがなる。
「悠瑠くんも一緒に帰りましょう。」
体を起こし、悠瑠くんの目の前に立って手を出したが、「今日は気分じゃないから」と断られてしまった。この人は本当に大学に行けるのだろうか。少し心配を覚えたが俺ができることは彼を信じることだけだと思い、教室に戻ろうとした。
本当は、俺もここに残りたかった。今朝まで不穏な空気だった分、彼ともう少し2人で過ごしたかったが、この前サボるなと言われたばかりだ、きっと許してはくれないだろう。
「なぁ、日下部。」
後ろから悠瑠くんの声がして、振り向くとソウを抱いて少し顔を赤くする悠瑠くん。
「あんなこと言ったけど…ソウが寂しそう、だからもう1限ここにいない?」
寂しいのは自分のくせにソウのせいにして、ソウで顔を隠す悠瑠くんは超ばぶい。様子を伺うようにこちらを見ている悠瑠くんに自然と笑顔がこぼれた。
「ソウが寂しいならしょうがないですね。」
俺がベンチの方に戻ると嬉しそうな表情をする悠瑠くんはすごくわかりやすい。ソウを俺に渡してきて、ずっと笑顔の悠瑠くんは、お気に入りのおもちゃを貰ったときのようだった。
「悠瑠くんも俺と居たいみたいですし。」
そう付け加えると、今まで以上に顔が赤くなった悠瑠くん。少し意地悪を言いすぎただろうかと思っていたが、
「…そうだよ、もう少しお前と居たい。好きな人と長くいたいと思うのは普通だろ。」
悠瑠くんからカウンターを食らってしまった。
俺の制服の裾を掴んでそっぽ向く。悠瑠くんは俺が猫に似てるって言ってたけど、悠瑠くんの方が猫に似ていると思う。
「悠瑠くん直球すぎてズルくないですか?」
「そりゃ、振り向いてほしいんだから。」
俺この人に振り回される予感しかしない。でも、それが嫌だと感じない自分がいる。早くあの子を探さないと、俺のためにも悠瑠くんのためにも。
◇◇◇
5限の終わる時刻が近づく。
元々6限の授業には出ようと思っていたが、悠瑠くんといる時間が久しぶりに感じて、楽しくて、何だか行きたくなくなった。昨日も会っていたはずなのに。
「ねぇ、悠瑠くん。次の時間もここにいていいですか?」
「ダメだよ、まだ入学して1ヶ月過ぎだろ。」
「ちゃんと授業をうけろ。」と言う悠瑠くんは、やっぱ、先輩なんだなと感じる。もう5限をサボってしまったから一緒なのに。
「悠瑠くんだって受験生じゃないですか」
悠瑠くんは高校3年生、この時期の普通の3年生は、ピリピリと勉強ばかりしているのに、悠瑠くんはフラフラと授業もでない。勉強しなくても大丈夫なのだろうか。大学に進学する気がない……とか?
「高校の授業ってさ、おもんない。」
「…悠瑠くんって賢かったんですか?」
「うわ、ちょう失礼。まぁ、大学は行けるくらいだよ。」
さっきまでの険悪な雰囲気が嘘みたいに俺たちは元に戻ったように普通に話せた。
良かった、嫌われていなくて。良かった、また元に戻れて。
「賢い訳じゃない、親がそういう親なの。」
「将来決まってるボンボンとか?」
「…お前、俺をなんだと思ってんの。」
俺は悠瑠くんのこと全然知らないんだなって改めて思い知らされる。
初めて家族の話をされた。初めて悠瑠くんの学校生活の話を聞いた。
「ただの教育方針だよ。俺の好きな様に生きて欲しいっていう。」
「いい両親なんだね。」
「…うん、」
悠瑠くんは、嬉しそうにしていたが、目にはうっすらと涙が溜まっていた。照れてるのかなと顔を覗いてみると「見んな。」と軽く背中を叩かれてしまった。
ニャーと鳴くソウは悠瑠くんを取られて寂しいのか、悠瑠くんの足元に擦り寄っていた。
「あ、ソウごめんな。エサまだだったね。」
ソウに甘々な悠瑠くんは、声がすごく優しくなる。ソウの名前を呼ぶ度に、自分じゃないと分かっていても少し口角が上がってしまう。心臓の奥がギュッと締め付けられる。
「俺がソウにエサあげてもいい?」
「ははっ、いいよ。」
なんで笑うのか分からなかったけど、悠瑠くんにエサをもらって器にのせてあげる。すると、チビチビとエサを食べるソウを見ていて、可愛くて、そりゃ悠瑠くんもメロメロになるな、と感じた。
「ソウ、お前可愛いな。」
なんて声をかけて、ソウの頭を撫でた。
「日下部がソウって呼ぶとなんだか可愛いな。」
なんて言って笑うから、さっき笑ったのもこれが原因かとわかってしまう。たしかに、自分のことを呼んでいるように聞こえるのかと思えて少し恥ずかしい。
「こんな名前付けたのは悠瑠くんでしょ。」
「……この名前が良かったんだよ。ソウも喜んでるし。」
悠瑠くんが頭を撫でる方が、ソウは喜んでいるように見えた。ソウも甘えた声で鳴き、夢中で食べていた器から顔を外し、悠瑠くんの元に擦り寄った。
「ソウは俺より悠瑠くんの方が好きだもんね。」
「そりゃ、お前よりいる時間が長いんだから。」
悠瑠くんの真似して頬をプクりと膨らませた。悠瑠くんはそんな俺を見て声を出して笑いだした。
「そ、そんな笑わなくても……。」
「想くん、可愛い。」
「……へっ?」
悠瑠くんは気づいてないみたいだ、俺の事名前で呼んだこと。顔が一気に熱くなる。脈拍が早くなる。ドクドクと心臓がうるさい。
「何で赤くなってんの?熱?」
「いや、なんでもないです。」
「なんだよ。」と言って口を尖らせてソウに構う悠瑠くん。何だか頭が重たくなって悠瑠くんの肩に頭を乗せた。こんなことしてはいけないなんて思っていても、この優しい先輩の弱みにつけこんでしまう。
「え、日下部……?」
「少しだけ。」
悠瑠くんは俺のことを拒まず、そのまま過ごしていると、5限終了のチャイムがなる。
「悠瑠くんも一緒に帰りましょう。」
体を起こし、悠瑠くんの目の前に立って手を出したが、「今日は気分じゃないから」と断られてしまった。この人は本当に大学に行けるのだろうか。少し心配を覚えたが俺ができることは彼を信じることだけだと思い、教室に戻ろうとした。
本当は、俺もここに残りたかった。今朝まで不穏な空気だった分、彼ともう少し2人で過ごしたかったが、この前サボるなと言われたばかりだ、きっと許してはくれないだろう。
「なぁ、日下部。」
後ろから悠瑠くんの声がして、振り向くとソウを抱いて少し顔を赤くする悠瑠くん。
「あんなこと言ったけど…ソウが寂しそう、だからもう1限ここにいない?」
寂しいのは自分のくせにソウのせいにして、ソウで顔を隠す悠瑠くんは超ばぶい。様子を伺うようにこちらを見ている悠瑠くんに自然と笑顔がこぼれた。
「ソウが寂しいならしょうがないですね。」
俺がベンチの方に戻ると嬉しそうな表情をする悠瑠くんはすごくわかりやすい。ソウを俺に渡してきて、ずっと笑顔の悠瑠くんは、お気に入りのおもちゃを貰ったときのようだった。
「悠瑠くんも俺と居たいみたいですし。」
そう付け加えると、今まで以上に顔が赤くなった悠瑠くん。少し意地悪を言いすぎただろうかと思っていたが、
「…そうだよ、もう少しお前と居たい。好きな人と長くいたいと思うのは普通だろ。」
悠瑠くんからカウンターを食らってしまった。
俺の制服の裾を掴んでそっぽ向く。悠瑠くんは俺が猫に似てるって言ってたけど、悠瑠くんの方が猫に似ていると思う。
「悠瑠くん直球すぎてズルくないですか?」
「そりゃ、振り向いてほしいんだから。」
俺この人に振り回される予感しかしない。でも、それが嫌だと感じない自分がいる。早くあの子を探さないと、俺のためにも悠瑠くんのためにも。
◇◇◇
