想side
「大きくなったら、想くんと結婚する。」
幼い頃の記憶。本当に覚えているのはこの約束だけ。何度も何度もこの言葉が頭を過る。
昔、ばあちゃんの家に行ったとき出会った可愛い女の子。田舎の大きな池の近くで出会ったその子は少しの間そこに住んでいると言っていた。俺の2つ上で、ここで過ごしている間はずっと彼女と過ごした。
彼女との別れ際、俺に言ってくれた。
俺は、ずっとこの言葉に縛られている。またあの子に会えると、俺の前に現れてくれること。
◇◇◇
父の勧めで入った男子校。あの子を探すために入りたかった高校は学力が足りず断念した。せめて同じ街にいたいとこの高校を選び、絶対今年中にあの子を見つける、そう意気込んでこの街に来た。
初めて袖を通す制服。初めてくぐる校門。それだけで胸が高鳴った。
満開の桜と、暖かな日差し。本当に入学式日和だ。上を向いて大きく息を吸う。その時、目線の先には男の人がいた。茶髪の毛はフワフワしていて、目は垂れ下がっている。日焼けを知らないほど肌が白く、口元はきゅっと上に上がっていた。綺麗な人。なぜか目が離せなくてジッと見つめてしまった。
「……見つけた。」
「へっ?」
小さくて聞こえなかったが、確かにそう言って、2階の窓から俺めがけて飛び込んできた。まるで映画の中のワンシーン。この瞬間、全てがスローモーションのように感じた。急なことでも頭の処理は正常で、受け止めなければならないという気持ちで手を伸ばしたが、受け止めきれず、ドサッという音を立てながら、後ろに倒れた。俺の胸元に顔を埋めていた男の人は、顔を上げるとジッと俺を見つめてくる。しばらく見つめた後、優しく笑った。
「おい、渡里!3年にもなって、2階から飛び降りるとは何事だ!お前は後で生徒指導室に呼び出しだからな!」
「悠瑠、怪我ない?」
「先生〜、後で行くよ。怪我もないし大丈夫〜。」
2階から聞こえた怒号を何も思わず、笑顔で手を振っていた。何だか不思議な人。この人に笑顔を向けられると、何故か何でも許してしまいそうだ。
3年生…ということは先輩か。全くそんなふうには見えなかった。
「やっと見つけた。」
先程まで上を見上げていた先輩は、今度は俺の方を向き、先程と同じ言葉を発した。俺には会った記憶も、覚えられるようなことをした経験もないのに。
「えっと…、どこかで会いました?」
「……は、本気で言ってる?」
さっきまでニコニコだった先輩の顔は瞬く間に曇り顔へと変わってしまった。こんな顔させたかった訳ではないのに。
「ごめんなさい。本当に心当たりがなくて。」
正直に謝ると、先輩は眉を下げて寂しそうに笑った。何故か悪いことをしたかのように感じてしまい、申し訳なくなった。先輩は、俺の上から降りて立ち上がり、制服の砂を簡単に払い落とした後、俺に手を差し伸べた。その手に捕まり立ち上がると、砂を軽く払い落としてくれる。
「あ、ありがとうございます。」
「俺…、渡里 悠瑠って言うんだ。」
「俺は、日下部想です。」
「まず名前から覚えて。」と、ぶっきらぼうに言っている先輩は、苦しそうで、どうすればあの綺麗な笑顔に戻るのか俺には分からない。先輩の探している人は俺ではないけど、ほんの少しだけ、彼を知りたいと感じた。
「俺、行くから。」
「渡里先輩、これからよろしくお願いします。」
渡里先輩は、グッと口を噤む。「ん。」と、短い返事をしただけですぐに校舎の中へと入っていった。
この日から、渡里先輩と俺の日常が始まった。
「大きくなったら、想くんと結婚する。」
幼い頃の記憶。本当に覚えているのはこの約束だけ。何度も何度もこの言葉が頭を過る。
昔、ばあちゃんの家に行ったとき出会った可愛い女の子。田舎の大きな池の近くで出会ったその子は少しの間そこに住んでいると言っていた。俺の2つ上で、ここで過ごしている間はずっと彼女と過ごした。
彼女との別れ際、俺に言ってくれた。
俺は、ずっとこの言葉に縛られている。またあの子に会えると、俺の前に現れてくれること。
◇◇◇
父の勧めで入った男子校。あの子を探すために入りたかった高校は学力が足りず断念した。せめて同じ街にいたいとこの高校を選び、絶対今年中にあの子を見つける、そう意気込んでこの街に来た。
初めて袖を通す制服。初めてくぐる校門。それだけで胸が高鳴った。
満開の桜と、暖かな日差し。本当に入学式日和だ。上を向いて大きく息を吸う。その時、目線の先には男の人がいた。茶髪の毛はフワフワしていて、目は垂れ下がっている。日焼けを知らないほど肌が白く、口元はきゅっと上に上がっていた。綺麗な人。なぜか目が離せなくてジッと見つめてしまった。
「……見つけた。」
「へっ?」
小さくて聞こえなかったが、確かにそう言って、2階の窓から俺めがけて飛び込んできた。まるで映画の中のワンシーン。この瞬間、全てがスローモーションのように感じた。急なことでも頭の処理は正常で、受け止めなければならないという気持ちで手を伸ばしたが、受け止めきれず、ドサッという音を立てながら、後ろに倒れた。俺の胸元に顔を埋めていた男の人は、顔を上げるとジッと俺を見つめてくる。しばらく見つめた後、優しく笑った。
「おい、渡里!3年にもなって、2階から飛び降りるとは何事だ!お前は後で生徒指導室に呼び出しだからな!」
「悠瑠、怪我ない?」
「先生〜、後で行くよ。怪我もないし大丈夫〜。」
2階から聞こえた怒号を何も思わず、笑顔で手を振っていた。何だか不思議な人。この人に笑顔を向けられると、何故か何でも許してしまいそうだ。
3年生…ということは先輩か。全くそんなふうには見えなかった。
「やっと見つけた。」
先程まで上を見上げていた先輩は、今度は俺の方を向き、先程と同じ言葉を発した。俺には会った記憶も、覚えられるようなことをした経験もないのに。
「えっと…、どこかで会いました?」
「……は、本気で言ってる?」
さっきまでニコニコだった先輩の顔は瞬く間に曇り顔へと変わってしまった。こんな顔させたかった訳ではないのに。
「ごめんなさい。本当に心当たりがなくて。」
正直に謝ると、先輩は眉を下げて寂しそうに笑った。何故か悪いことをしたかのように感じてしまい、申し訳なくなった。先輩は、俺の上から降りて立ち上がり、制服の砂を簡単に払い落とした後、俺に手を差し伸べた。その手に捕まり立ち上がると、砂を軽く払い落としてくれる。
「あ、ありがとうございます。」
「俺…、渡里 悠瑠って言うんだ。」
「俺は、日下部想です。」
「まず名前から覚えて。」と、ぶっきらぼうに言っている先輩は、苦しそうで、どうすればあの綺麗な笑顔に戻るのか俺には分からない。先輩の探している人は俺ではないけど、ほんの少しだけ、彼を知りたいと感じた。
「俺、行くから。」
「渡里先輩、これからよろしくお願いします。」
渡里先輩は、グッと口を噤む。「ん。」と、短い返事をしただけですぐに校舎の中へと入っていった。
この日から、渡里先輩と俺の日常が始まった。
