先輩は俺の唇に人差し指を当てて、ぐっと顔を近づける。
「瑞稀が言う前に、俺に言わせて。それが礼儀だから」
「礼儀?」
ゴホンッと大きくひとつ咳を吐き、先輩は再び艶っぽい瞳で俺を捉えた。
「好きだよ、瑞稀。俺と恋人としてお付き合いしてくれませんか?」
突然の告白に、ぼんっぼんっと顔で小爆発が起こる。
「な……っ、え、えええっ!? ちょ、まっ、俺、いま聞き間違いとかしてないですよね……!?」
情けない声でしどろもどろになる俺を見て、先輩は小さく吹き出した。
「してないよ」
「う、うそ……。で、でも、先輩は、これからアイドルで、忙しくなるだろうし、恋愛とか禁止だろうし……」
「うん、それはそうかもしれない。もしかしたら、明日にはマネージャーにこっぴどく怒られるかも」
そう言って先輩は困ったように笑った。でも、すぐにその瞳は真剣な色を宿す。
「それでも……今日だけは、素直でいたいって思ったんだ。ずっと、瑞稀に伝えたくて仕方なかったから」
胸の言葉に、胸がじんわりと熱くなる。
今日だけは、か。それは俺もそうだ。
俺はうつむいて、震える声で呟く。
「こっちこそ、ずっと言いたかんですからね……?」
先輩が優しく覗き込むように顔を寄せてくる。
もう逃げないと決めたんだ。ちゃんと伝える。
「俺も……先輩が、好きです。ずっと、前から。付き合ってください」
その瞬間、先輩の顔がふわっとほころぶ。たぶん今まで見た中で一番の笑顔だった。
「ん。うれしい」
気づけば、先輩がそっと俺の手を握っていた。
あたたかくて、大きくて、少しだけ震えてて。
だから強く握り返して、俺はこんなにも先輩のことが大好きだよって伝える。
「……先輩、俺も韓国行きます」
「え、なにそれ」
「マネージャーか、通訳さんになろうかなって」
「うそ、うそうそうそうそうそ! 大歓迎」
先輩は心底嬉しそうな笑顔で「全力で応援する!」って言いながら、俺の手をぶんぶん揺らしてきた。
でも、その手はずっと離れなかった。
たぶん、これからもずっと、離さないんだろう。
会場の隅ではスタッフたちが淡々と片付けをしている。
片隅で起きた、誰にも知られない〝はじまり〟の出来事。
燃え尽き症候群の先にあったのは、先輩とのめくるめく甘い恋――。
END.

