「瑞稀」
「あ、やっときた」
あれから一時間後。
すでに会場の清掃が始まり始めたころ、泣きはらした先輩が手紙に書いてあったとおり、俺の座席までやってきた。
俺も先輩に負けないくらい泣いた自信があるので、ハンカチで目元を隠しこそこそと対応する。
「ふっ、ばか。もうバレてるから」
「わっ!」
先輩は俺からハンカチを奪い取り、ふっと優しい笑みをこぼす。
「瑞稀の応援、痺れたわ。ありがと」
「……っ」
先輩の穏やかで艶やかな眼差しに、心臓がドキッと小さく跳ねる。
至近距離で見つめ合い、お弁当のときみたいな感じた甘い空気に包まれる。
ずっとこのまま漂っていたい気になるけれど、俺は気持ちを強く持って先輩を見上げた。
「先輩……あの、本当におめでとうございます。俺も、先輩の夢が叶って嬉しいです」
「瑞稀……」
俺がそう言うと、先輩は少し目を見開き驚いた顔をする。
「……でも、正直に言います。オーディションの最中、ずっとそういう明るい感情で居続けられたわけじゃなくて。先輩と会えなくて寂しかったし、先輩がどんどん遠くに行ってしまうのがすごく寂しくて……女の子にキャーキャー言われてるのも、ちょっと複雑だったりして……先輩のこと、誰にもとられたくないって思ったりもしました」
俺の独白を、先輩は真剣な表情で聞いている。
「もう苦しむのがいやで、先輩と距離をとろうと思ってそれで……」
「ストップ」

