その後、奇跡的に自宅前で瑞稀に再会することができた。
 けれど、そこで俺が見た光景は、あまりにも衝撃的だった。

 亜嵐くんが、瑞稀を抱きしめていたのだ。

 『瑞稀はずっと俺と両想いだったんです。だから安心して俺に任せて、アイドルにでもなってください』

 そう言って、亜嵐くんはまっすぐ俺の目を見てきた。

 ショックは大きかった。でも、彼のその真剣な瞳を見ていると、どうしても嘘をついているとは思えなかった。

 少し前に瑞稀は、「もう亜嵐くんとは縁を切った」と話していた。
 理由は、気持ちのすれ違い。
 お互いにまだ好きだけど、それでも上手くいかなかったって言っていた。

 瑞稀の口からは聞いたことがなかったけど、俺はもう分かってる。
 亜嵐くんは、昔からずっと瑞稀のことが好きだったと思う。
 だから、ふたりの仲がこじれた本当の原因は、恋愛感情が絡んでいたからなんじゃないかって、そう思わずにはいられない。

 (もしかして……瑞稀にとって、俺が一番の邪魔なのかもな)

 そんな考えが頭をよぎって、思わず深いため息がこぼれた。
 今日の一件で、瑞稀に嫌われた可能性はものすごく高い。亜嵐くんに心変わりした可能性だって十分ある。
 この流れで、最終ステージだって、観に来てくれるかどうか微妙なラインだ。
 俺は力が抜けた体を窓に預ける。

 正直、少しは自信があった。
 瑞稀は俺のことを好いてくれてるって。
 明確に「付き合ってほしい」とは言えなかったけれど、できる限り想いは伝えてきたつもりだ。
 だからどこかで安心していたんだと思う。

 告白は、オーディションがすべて終わったあとにしようと決めていた。
 この挑戦は、過去の自分との決着であり、家族の夢でもあった。
 瑞稀が応援してくれているからこそ、俺は全力でぶつかってこれた。

 (ダンスは大事だし、夢も叶えたい。けど、瑞稀だって俺にとって同じくらい大切な存在だ)
 
 夢と恋を天秤にかけるなんておかしいと思っていた。でも、実際には瑞稀がいない未来なんて想像できないくらい、彼を好きになっていた。告白して、瑞稀と恋人みたいになりたい。

 でも今日みたいに彼を悲しませてしまうくらいなら……俺がそばにいないほうが、瑞稀はもっと幸せになれるのかもしれない。
 そんな考えが、頭から離れない。
 俺はどうするのが正しいのか、もう分からなくなってしまった。