先生の声が教室に響くと、学年ごとに分かれてそれぞれの場所へと散っていった。
 三学年が合同で踊る曲は、人気バンドの『アオハル』に多数決で決定する。
 ユーチューブにこの曲の振り付け動画がたくさん上がっていて、それを見ながら各自で覚え、合わせて練習していく流れになる。

 三年生だけは、学校の伝統応援歌を別で踊ることになっていて、つまり練習量は倍だ。
 隣でその説明を聞いているだけで、すでに気分はどんよりする。
 来年こそは絶対に、どんな手を使ってでも、応援団だけは回避する! と強く心に誓った。

 「うわ、動き早すぎやん」
 「え、めっちゃ難しくない? 私たち踊れる気しない……」

 二年生だけで集まり、先生から渡された学校用タブレットでダンス動画を確認する。
 でも出てくる言葉はほぼ愚痴。どうやらこの学年、応援団に燃えてる人間は皆無らしい。もちろん俺のやる気もゼロ。

 とはいえ、一ヶ月後には全校生徒の前で発表することになっている。
 悠長にしていられる時間はないし、隣で練習している三年生にいびられるんじゃないかという不安もある。
 というわけで、全体的に乗り気ではないが、みんな腰を上げるしかなかった。

 「とりあえず、動画に合わせて真似してみようか」
 櫻井がそう提案し、俺たちはなんとなくその場で体を動かし始める。
 やる気半分、適当半分のダンスがしばらく続く。

 ――そのときだった。

 三年生の集まりから、突然大きな歓声が上がった。

 「もぉ、七海くんかっこいいぃぃー!」
 「完全アイドルじゃん! 推すしかないっしょ……!」

 二年や一年のテンションとは別次元の熱気。なにが起こっているのか、全員がそちらに視線を向けた。
 俺も人の頭の隙間から首を伸ばし、輪の中心を覗き込む。

 そして、目に入ったのは……七海先輩だった。

 俺たちと同じ曲に合わせ、軽やかに、そして完璧に踊っている。
(え、練習が始まってから……まだ三十分くらいしか経ってないよね?)
 それなのに、この仕上がり。メリハリの効いた動き、ブレない軸。完全に〝魅せる〟ダンスだ。

 音楽が終わっても、自然と視線は彼を追ってしまう。
 それは俺だけじゃなく、周囲の誰もが同じだった。
 この中で先輩のことを“好き”って思ってる人、何人くらいいるんだろう。そんなことを、つい考えてしまった。