(え……?)

 聞き馴染みのある声に、動きを止める。
 亜嵐も肩で反応したかと思うと、ゆっくり腕が解かれていった。

 「利久、先輩……」

 俺らの後ろに立っていたのは、困惑した表情の先輩。
 待ち合わせの銀座ならともかく、どうしてうちの家の前にいるんだろう。
 どうやら彼は路肩に停まっている高級車に乗って、ここまでやってきたらしかった。
 うぬぼれてるだけかもしれないけど、俺たちが抱き合ってる姿を見て相当ショックを受けてる。

 (あー、もうダメ。全然釣り合ってねぇわ。亜嵐の言う通り)

 先輩は……頭からつま先まで芸能人さながらの完璧な姿だった。
 少し襟足が長くなった金髪を一つに束ね、高級そうなコートとタートルネックをいとも簡単に着こなして。
 
 (これを月と鼈の差って言うんだな)
 
 全然知らなかった。会っていない間に、こんなに綺麗になってるなんて、こんなにかっこよくなってるなんて。
 俺の知ってる先輩は、もう少し手の届くところにいたはずなのに。
 先輩は気を取り直した様子で口を開く。

 「えっと、この状況何? ……亜嵐くん、だよね?」

 「いやそれ、こっちのセリフ。今更なんのつもりですか……〝センパイ〟」

 亜嵐は今までの優しい雰囲気を嘘のように隠し、利久先輩に対して高圧的な態度をとる。

 「あのっ、亜嵐! その言い方はさすがに無いって。マジで」

 胸板を押して離れるようにお願いするけれど、亜嵐は動こうとしない。

 「瑞稀を寒空の中、一時間以上も待たせて。連絡ひとつもよこさないで。あんた、アイドルだったら、何やったっていいんですか!?」