亜嵐と、結局一日中一緒にいた。
 楽しかった。いや、たぶん、無理やり楽しもうとしていたんだと思う。
 先輩と過ごすはずだった時間を、別の何かで埋めようとするみたいに。
 大きくなりすぎた先輩への想いが、ほんの少しでも小さくなればいい。
 そんな願いを抱きながら、俺はずっと笑っていた。

 夕方になっても、結局先輩からの連絡は来なかった。
 期待し続けるのが馬鹿らしくなって、ようやく諦める決心がついた。
 駅から俺の家までは、徒歩で十分ほどの距離。亜嵐が自然な流れでそこまでついてきてくれた。
 一月も後半に入って、夕焼けの時間がほんの少し伸びたようだった。
 西の空に広がる茜色が、俺たちを包んでいる。

「……あのさ、亜嵐。今日は偶然だったけど、一緒に待っててくれてありがとう。めちゃくちゃ楽しかった」

「お互いちょうどよかったよな。予定、なくなったし。あ、そうだ、今日送った写真送りたいからLINE教えて」

「ったく、お前がブロ削しなけりゃこんなことにはなってねぇよ」

 俺のLINEを再度、亜嵐に登録してもらい、ようやく場が収まる。

 「じゃあ、今日はありがと。……遅くまで引き止めてごめん。気をつけて――」

 手を振りかけたそのとき、亜嵐がふっと笑って、ぽつりと呟いた。

「……なーんて、偶然とか嘘だから。俺、お前の姉ちゃんに聞いて、銀座まで行ったし」
「は?」

 言葉の意味が全く飲み込めず、思わず立ち止まる。
 亜嵐は一日中背負っていたリュックから、何かを取り出した。
 小さな箱。赤いリボンが結ばれた、掌に収まるほどのプレゼントだ。

 「誕生日、おめでとう。瑞稀」

 箱を差し出しながら、亜嵐はいつもの調子で、けれどどこか照れたように笑っていた。
 
 「う、そ」

 先輩のことで頭がいっぱいで、自分の誕生日だなんてすっかり忘れていた。
 しかも絶交した亜嵐が、こうして祝ってくれるなんて夢にも思わない。
 プレゼントを受け取って呆然とする俺に、亜嵐はまっすぐ視線を向けた。

 「やっぱ、瑞稀のこと忘れられなくてさ、俺。連絡も自分から絶っちゃったし、今日お前の家に行って直接謝りたくて。……誕生日しかお前に会う口実なんてないし、ごめんな」