画面に映し出されていたのは、練習着姿のリクと、大人気日韓アイドル・ISSUEEのリーダー、ミオの姿だった。
 闘志を宿した先輩の視線の先にいるのは、冷徹なオーラを纏った、完璧に磨かれたスター。

 【ふたりは、かつて同じダンススクールで切磋琢磨していた仲間】
 【夢をつかめなかったリクと、世界に羽ばたいたミオ】

 そんな雑すぎるテロップが画面に表示され、先輩の過去を知っている俺は、悔しさで拳を握った。

(何も知らないくせに、よくそんな簡単に言えるな……)

 以前、先輩が話してくれた「ミオ」が、姉の推してるあの〝ミオ〟だったと気づいたのは、まさにこの瞬間だった。
 俺には何も言わずにいたけれど、先輩は最初からわかってたはずだ。
 かつてライバルとして共に競い合った友人が、今は審査員として目の前に立つ。
 その事実を知った上で、この番組への出演を決めた。
 彼の覚悟は、俺が思っていた以上に、ずっと重くて、本気だったんだ。

 それに審査員たちの評価は厳しかった。
 世界を見据えたグローバルアイドルを目指すため、どの言葉にも甘さはない。
 先輩はまだマシなほうだったけど、それでも「まだまだプロの域に達していない」と、あっさりと切り捨てられていた。

 <いろいろありますけど、ミオ、超えます。よかったら僕を、応援してください>

 画面越しに、先輩が笑った。どこかで何度か見た〝作られたアイドルスマイル〟で。
 番組はシリアスな空気を保ちながらも、最後に合宿参加メンバーの挨拶を映して終わる。
 どの顔も、カメラを意識した笑顔だった。もちろん、先輩もだ。

 「ねえねえ、昨日のプロデュース111見た!?」
 
 「見たに決まってるでしょ! あのウインク、死ぬ~!」
 
 「七海先輩、まじメロい。一生推せるんだけどーー!」

 翌日、登校したらすでに先輩の噂で持ち切りだった。
 教室のあちこちで飛び交う歓声が、現実味を帯びて胸をざわつかせる。
 
(先輩はとうとう、本当にテレビの向こう側の人になったんだな)