そう言い聞かせながら、やっぱり焦りは強くなっていく一方で。
 俺は本気で自分の将来をどうしていこうか、考えることに決めた。
 進学も大体じゃなく、ちゃんと目指す場所を決めたら、俺だってもうちょっと真面目に勉強できるかもしれない。

 そんなある日の夜――突然、先輩から電話がきた。
 ちょうど風呂から上がって、パックをしてベッドに寝転んだ直後のことだった。

 先輩が合宿に行ってから一度も電話で話していなかったので、実に二週間ぶり。
 心臓が忙しなく動き始める。

 「も、もしもし、先輩?」

 『瑞稀、ごめんいきなり。今、大丈夫……?』

 「はい、全然。今、ひとりだし。どうしたんですか?」

 『あぁ……ん、えっと……』

 先輩は弱々しく言った後、黙ってしまう。
 ただならぬ重たい空気に、緊張が走った。
 先輩の呼吸する音や軽い咳払いからも、苦しそうなのが伝わってくる。

 (俺に伝えなくちゃいけないことがあるんだろうけど、内容は前向きな感じではなさそうだ)

 怖気づきそうになりながらも、思い切って口を開く。

 「大丈夫ですか、先輩。体調が悪いんですか……?」

 俺の質問に沈黙が落ちる。
 不安に思っていると、ゴホンッと大きな咳払いを合図に、吐息のノイズが耳にかかった。

 『ううん、違う。ただ瑞稀の声聞きたくて……。めっちゃ会いたい』

 先輩の落ち着いた声は深く、胸の奥底まで浸透していく。
 それだけじゃなくて、ぎゅうっと強く、握りしめられるような痛みもくれる。

 (ああ、だめだこれ。俺だって気持ちを抑えてたのに、そんなんされたら溢れてくるよ?)

 好きって言いたいとか、会いたいとか、声聞きたいとか。一日何十回、何百回思ってるか分からない。

 「俺も、それは毎日想ってます……嬉しいです。普通に」

 『……よかった。……寂しい。瑞稀に触れたい』

 「っ」

 先輩はストレートに気持ちを伝えてくれる方だと思ってるけど、俺にとって最上級の言葉が飛び出した。
 耐性がついていなくて、上手く反応できない。
 こういう大人の言葉には、どう伝えるのが一番スマートなんだろう?

 『……あっは、冗談だよ。瑞稀、照れてるの?』

 先輩の茶化すような甘い声が、耳をくすぐってくる。

 「じょ、冗談なの……? 俺は、触れたいですけど」

 口から心臓が出そうなほど緊張しながら、低い声で本音を伝える。
 一瞬沈黙が落ちたけれど、先輩はかすかに息をこぼした。

 『ううん、本当は触れたい。キスしていい?』

 「え?」