沢っちが、容赦なく痛いところを突いてくる。

 「うーん……マジで夢とか、持ったことないかも。強いて言えば、幼稚園の頃に仮面レイダーになりたかったくらいで……」

 「ぶっは! 仮面レイダーキター! 僕も見てた、それ!」

 「俺もガチ勢だったぞ。ショーとか観に行ってたし!」

 「マジ? 東京ドームシティのやつ? 仮面レイダーキングのライブ、行ったことある?」

 (……あ。これ、俺のターン終わったな)

 気づけば、沢っちと北野は仮面レイダーの話で盛り上がってる。俺はすっかり蚊帳の外。
 思わず深いため息をついたそのとき、ポケットのスマホがぶるぶると震えた。

 SNSに一件の通知。利久先輩からだった。

 【瑞稀、お疲れ。今、休憩中~】

 タップしてチャットを開くと、練習着姿の先輩がピースしてる自撮りが送られてきていた。
 長めの前髪はちょんまげみたいに結ばれてて、どこかあどけなくて可愛い。
 額や頬にはびっしりと汗がにじんでいて、かなりハードな練習なんだろうなってことが、一目でわかる。

 先輩はすごく忙しそうだけど、毎日時間ができたら、必ずこうやって連絡をくれる。
 だからかな。俺は先輩がすごく離れている場所にいるように思えなかったし、繋がっているように感じられてる。
 でも写真は、いつも顔のアップだけだ。
 他の参加者も、背景も、何も映っていない。
 先輩いわく、オーディションの内容は外部に一切漏らしちゃいけないらしくて、どんな練習をして、どんな状況で、どんな人たちと一緒にいるのかは、全然わからないまま。

 (でも、この表情。たぶん、うまくやってるんだろうな)

 【おつかれさま。マスコットキャラみたいですね】

 思ったことをそのままメッセージにすると、先輩から【理解できません】とバッサリ切られた。

 (ポケットに入れて持ち歩きたいくらい〝可愛い〟って意味だったのに。伝わんないか)

 ひとりで異国の地に飛び込んで言葉の壁もあるだろうに、先輩は毎日歌とダンスのレッスンに勤しんでいて、本当にすごい。
 対して俺は、今までと変わらず平凡な生活を送っていて、適度に勉強はしているけれど、それ以外はゲームくらいしかしていない。
 少し前までは先輩が傍にいてくれて、会う約束もあって。
 何をするにもやる気が出て楽しかった。でも今は、少しずつ体たらくな前の自分に戻ってしまっていっているような気がする。

 (いやいやいや! それは気のせいって思お。前は何やるにも、腰が重かったし、今とは全然違うじゃん!?)