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 あの日から数日後。先輩はオーディションの第一審査を受け、見事合格した。
 決まったら何もかも早かった。
 先輩は第一審査を合格し、一週間ほどで韓国の合宿へと旅立った。
 テレビ番組への参加が正式に決まり、プロジェクトは本格的に動き出したのだ。

 季節はすでに十二月初旬。三年生の先輩にとって、学生生活の残り時間はわずか。
 それでも先輩は、数か月にわたる合宿に集中参加することを選んだ。
 学校に顔を出すことすら難しくなり、学生生活どころか中退も覚悟の上で臨むという話を聞いたとき、少しショックだった。
 同時に、俺はそこまで覚悟を決めた先輩の芯の強さに、誇らしい気持ちも湧いた。

 「ねぇ、音ちゃんは何大学に行きたいとかあるのー?」

 冬休みに入る直前の放課後、沢っちにそう尋ねられた。
 
 十一月の終わりに行った期末テストが返され、今の実力がはっきりと突きつけられた。
 それからは、クラス中が進路の話題でもちきりで、俺も自然と意識せざるを得なくなっていた。

 「んー、特にないかな。今の実力だと、N大とかO大が射程圏内って林田先生には言われたから、その辺にするかも」

 「すご。やっぱ、音ちゃんって頭いいんだね。僕は全然無理なレベルだ」

 沢っちはそう言って、大きなため息をつく。

 「でも、沢部はゲームクリエイターになりたいんだろ? 大学じゃなくて専門学校のがいいんじゃないか?」

 俺たちの話を盗み聞きしていた北野が、さらりと話に入ってくる。

 「まぁぶっちゃけそうなんだよねーぇ。お母さんには大学行けって言われてるけど、それよりも早く、実践で物を作れるようになりたいと思っちゃう」

 「いいんじゃね、それで。俺もオカンに大学行かずに、就職したいってお願いしたぞ?」

 「「就職ーーー!?」」

 初耳の初耳で、沢っちとともに、思わず大きな声を上げる。

 「ちょ、北野。お前、就職すんの!? 死ぬ程頭いいのに、もったいなくね」

 華奢な肩をがしっと掴んで、ついつい激しく揺らしてしまう。

 「まー、もう勉強することに飽きたし、うちの叔父さんさー、実は地方ででっかいスーパー沢山経営してて。俺もそこで社員として働きながら経営とか学んで、いずれは重役をガチで狙っていきたいなと。そっちのがこれから余裕かなと」

 「は、はぁ」

 北野は働きながら投資もして、資産運用したいとか言っていたけど……俺には半分も理解できなかった。
 ちゃらんぽらんに見えてたふたりが、こんなに先のことをしっかり考えてるなんて、正直ショックだった。

 (あれ、俺だけじゃない? なんにもないのは)

 ようやく、自分が人よりも何も考えていないのが判明して、焦りがこみ上げてくる。
 このふたりだけじゃなく、利久先輩だってちゃんと自分の夢があって、全力投球してるっていうのに。

 「ねー、そういえばさ。音ちゃんって何になりたいとかないの? 聞いたことないよね、そういえば」