◆◆◆
あの日から数日後。先輩はオーディションの第一審査を受け、見事合格した。
決まったら何もかも早かった。
先輩は第一審査を合格し、一週間ほどで韓国の合宿へと旅立った。
テレビ番組への参加が正式に決まり、プロジェクトは本格的に動き出したのだ。
季節はすでに十二月初旬。三年生の先輩にとって、学生生活の残り時間はわずか。
それでも先輩は、数か月にわたる合宿に集中参加することを選んだ。
学校に顔を出すことすら難しくなり、学生生活どころか中退も覚悟の上で臨むという話を聞いたとき、少しショックだった。
同時に、俺はそこまで覚悟を決めた先輩の芯の強さに、誇らしい気持ちも湧いた。
「ねぇ、音ちゃんは何大学に行きたいとかあるのー?」
冬休みに入る直前の放課後、沢っちにそう尋ねられた。
十一月の終わりに行った期末テストが返され、今の実力がはっきりと突きつけられた。
それからは、クラス中が進路の話題でもちきりで、俺も自然と意識せざるを得なくなっていた。
「んー、特にないかな。今の実力だと、N大とかO大が射程圏内って林田先生には言われたから、その辺にするかも」
「すご。やっぱ、音ちゃんって頭いいんだね。僕は全然無理なレベルだ」
沢っちはそう言って、大きなため息をつく。
「でも、沢部はゲームクリエイターになりたいんだろ? 大学じゃなくて専門学校のがいいんじゃないか?」
俺たちの話を盗み聞きしていた北野が、さらりと話に入ってくる。
「まぁぶっちゃけそうなんだよねーぇ。お母さんには大学行けって言われてるけど、それよりも早く、実践で物を作れるようになりたいと思っちゃう」
「いいんじゃね、それで。俺もオカンに大学行かずに、就職したいってお願いしたぞ?」
「「就職ーーー!?」」
初耳の初耳で、沢っちとともに、思わず大きな声を上げる。
「ちょ、北野。お前、就職すんの!? 死ぬ程頭いいのに、もったいなくね」
華奢な肩をがしっと掴んで、ついつい激しく揺らしてしまう。
「まー、もう勉強することに飽きたし、うちの叔父さんさー、実は地方ででっかいスーパー沢山経営してて。俺もそこで社員として働きながら経営とか学んで、いずれは重役をガチで狙っていきたいなと。そっちのがこれから余裕かなと」
「は、はぁ」
北野は働きながら投資もして、資産運用したいとか言っていたけど……俺には半分も理解できなかった。
ちゃらんぽらんに見えてたふたりが、こんなに先のことをしっかり考えてるなんて、正直ショックだった。
(あれ、俺だけじゃない? なんにもないのは)
ようやく、自分が人よりも何も考えていないのが判明して、焦りがこみ上げてくる。
このふたりだけじゃなく、利久先輩だってちゃんと自分の夢があって、全力投球してるっていうのに。
「ねー、そういえばさ。音ちゃんって何になりたいとかないの? 聞いたことないよね、そういえば」
あの日から数日後。先輩はオーディションの第一審査を受け、見事合格した。
決まったら何もかも早かった。
先輩は第一審査を合格し、一週間ほどで韓国の合宿へと旅立った。
テレビ番組への参加が正式に決まり、プロジェクトは本格的に動き出したのだ。
季節はすでに十二月初旬。三年生の先輩にとって、学生生活の残り時間はわずか。
それでも先輩は、数か月にわたる合宿に集中参加することを選んだ。
学校に顔を出すことすら難しくなり、学生生活どころか中退も覚悟の上で臨むという話を聞いたとき、少しショックだった。
同時に、俺はそこまで覚悟を決めた先輩の芯の強さに、誇らしい気持ちも湧いた。
「ねぇ、音ちゃんは何大学に行きたいとかあるのー?」
冬休みに入る直前の放課後、沢っちにそう尋ねられた。
十一月の終わりに行った期末テストが返され、今の実力がはっきりと突きつけられた。
それからは、クラス中が進路の話題でもちきりで、俺も自然と意識せざるを得なくなっていた。
「んー、特にないかな。今の実力だと、N大とかO大が射程圏内って林田先生には言われたから、その辺にするかも」
「すご。やっぱ、音ちゃんって頭いいんだね。僕は全然無理なレベルだ」
沢っちはそう言って、大きなため息をつく。
「でも、沢部はゲームクリエイターになりたいんだろ? 大学じゃなくて専門学校のがいいんじゃないか?」
俺たちの話を盗み聞きしていた北野が、さらりと話に入ってくる。
「まぁぶっちゃけそうなんだよねーぇ。お母さんには大学行けって言われてるけど、それよりも早く、実践で物を作れるようになりたいと思っちゃう」
「いいんじゃね、それで。俺もオカンに大学行かずに、就職したいってお願いしたぞ?」
「「就職ーーー!?」」
初耳の初耳で、沢っちとともに、思わず大きな声を上げる。
「ちょ、北野。お前、就職すんの!? 死ぬ程頭いいのに、もったいなくね」
華奢な肩をがしっと掴んで、ついつい激しく揺らしてしまう。
「まー、もう勉強することに飽きたし、うちの叔父さんさー、実は地方ででっかいスーパー沢山経営してて。俺もそこで社員として働きながら経営とか学んで、いずれは重役をガチで狙っていきたいなと。そっちのがこれから余裕かなと」
「は、はぁ」
北野は働きながら投資もして、資産運用したいとか言っていたけど……俺には半分も理解できなかった。
ちゃらんぽらんに見えてたふたりが、こんなに先のことをしっかり考えてるなんて、正直ショックだった。
(あれ、俺だけじゃない? なんにもないのは)
ようやく、自分が人よりも何も考えていないのが判明して、焦りがこみ上げてくる。
このふたりだけじゃなく、利久先輩だってちゃんと自分の夢があって、全力投球してるっていうのに。
「ねー、そういえばさ。音ちゃんって何になりたいとかないの? 聞いたことないよね、そういえば」
