照れつつもはっきり告げると、先輩はほんのり耳を赤くしながら、まっすぐ熱い眼差しを向けてきた。

 「……ほんと?」

 「うん、ほんと」

 交わした言葉は、たったそれだけ。
 でもふたりを包む空気は、いつになく甘くて濃い。
 たっぷりのイチゴに、砂糖をどっさり加えて、じっくり時間をかけて煮詰めたジャムみたいだ。
 とろとろに溶けて、絡んで、逃げられないくらいに甘い。

(こんなふうに、ぐるぐる掻き混ぜられていたい。先輩と、ふたりだけの世界に)

 「瑞稀……あのさ、また今度、ふたりで出かけない?」

  先に口を開いた先輩から、思ってもみなかった誘いが飛び出す。

 「え、でも……先輩、オーディションが始まったら、けっこう忙しいんじゃないですか?」

 「うん、たぶんね。でも、一日くらいはオフもあると思う。スケジュールも……もしかしたら、合わせてもらわなきゃだけど」

 「え、それは任せてください!!」

 強めに主張すると、先輩はくしゃっと無邪気に笑う。

 「じゃ、どこ行きたいかお互いに出し合おうよ。あ、てか。順番に潰していくっていうのもよくない?」

 「あー、いいですね。今日はここ、次はここって……」

 さりげなくもっと未来の話までして、先輩と言葉だけの指切りをする。
 自分だけ気持ちが先走りしているような感覚だったけど、先輩もちゃんと俺のことを考えてくれる。
 そのありがたみを噛みしめて、ふたりでいる時間を全力で楽しみたいと思った。