先輩の言葉が、まっすぐ俺の心に飛び込んできた。
 鼓動が跳ね、意図せず笑みがこぼれた。たぶん、誤魔化そうとして。

 「……そう、ですか?」

 「亜嵐くん、音羽のこと好きなんじゃないの?」

 「えっ……」

 ふざけた調子なんかじゃない。
 先輩はただ、真っ直ぐに、俺の目を見ていた。
 澄んだ栗色の瞳に、俺の顔が映り込んでいる。きっと、驚きと困惑でぐちゃぐちゃな顔だ。

 何か言わないと。怪しまれるってわかってるのに、喉がつかえて言葉にならない。
 そんな俺の様子を見て、先輩はふっと表情をゆるめた。

 「いや、あのときすげー必死だったからさ。普通、あんなふうに拒絶されたら、あそこまでして話そうと思わないんじゃないかって思って。……まあ、適当なこと言ってごめん」

 「い、いえ……別に……」

 視線を落としたまま、小さく返す。
 先輩はそれ以上追及せず、軽く息を吐いた。

 「俺、ちょっと寝るわ。お前も寝たら?」

 言いながら、布団をめくってもぞもぞと潜り込んでいく。
 これ、ガチで寝るやつだ。俺も一緒にって、先輩と密着して布団に入るなんて、どうにかなってしまいそうだ。

 「いや、俺、悪いですよ……! 布団汚したくないし……この辺で適当に——わっ!」

 不意に、手首をつかまれた。
 そのままぐいっと引かれて、あっという間に布団の中へ引きずり込まれる。

 「い、いいですってば!」

 「いいから。別にお前にどうこうするわけじゃないし、焦んな」

 「……っ」
 
 たしかに、先輩のいう通りだ。ここで変に騒ぐ方が、怪しいと思われるだろう。
 呼吸を整え、先輩の隣へもぞもぞと潜りこむ。
 すぐそばに先輩の体温を感じ、心臓の高鳴りはピークだ。もう、意識しないようにするほうが無理だろう。
 すると、壁を見ていた先輩がふとこちらを振り返り、少し赤らんだ瞳で俺を見上げた。

 「ね、俺も瑞稀って呼びたいんだけど」