バーンアウトの先の恋。

 美海ちゃんの友達もふたり来ていて、すでに部屋は賑わっている。
 俺は先輩に勧められるまま、彼の隣に着席した。

 「音羽~、何食べる? からあげ?」

 食事が始まると同時に、先輩が俺の皿を手に取り、当然のように料理を取り分けはじめた。

 「あ、いいですよ! 自分で取れますから!」

 「いーの、遠慮すんなって」

 結局、先輩の圧に負けてしまい、俺はじっとからあげがお皿に積まれていくのを眺める。
 こんなふうに甲斐甲斐しくしてくれる友達なんて、今までいなかった。
 嬉しいけれど、どこか照れくさい。

 すると突然、どこからか視線を感じて、あたりを見渡した。

 「ね、お母さん。やっぱり音羽さん、可愛い感じの人だったねぇ~」

 「うふふ、そうね~」

 美海ちゃんと先輩のお母さんが、こちらを見ながらにやにやしている。どうやら俺と先輩の噂話をしているようだ。

 (〝可愛い感じの人〟って俺のこと……? いやいや、俺は可愛くなんてないし)

 困った俺は、助けを求めて先輩に視線を送った。
 しかし、先輩はあからさまに目を逸らしてくる。

 (うわ、完全に知らんぷりした……やっぱり、何か吹き込んでるよな?)

 絶対に後で問い詰めてやると、心に誓う。

 他愛のない話をしながら、俺たちはお腹いっぱい食事をし、最後に先輩のお母さんの手作りショートケーキをいただいた。
 くちどけの滑らかなクリームに、たっぷりのフルーツ。見た目も華やかで、食べ応えがあって、とても美味しい。

 「これ、毎年俺らの誕生日に、母さんが作ってくれるんだよね。うまいでしょ?」

 「うん、すごく。優しいですね、お母さん」

 「そうそう。怒ると誰よりも怖いけどね」

 そう言って笑う先輩の横顔は、どこか幸せそうで。その様子につられて、俺も自然と笑みがこぼれた。

 先輩の家庭のことは、今まで詳しく聞いたことがなかったけれど、さっき、お父さんが十年くらい前に病気で亡くなったと教えてくれた。
 それからずっと、母子家庭でこのマンションに暮らしているらしい。

 そんな過去がありながらも、七海家は笑顔と優しさにあふれていて、家族仲もとてもよさそうだ。
 先輩も、お母さんや妹さんに優しく接していて、きっとよき兄としてこの家族を支えてきたんだろうな、と思う。

 (やっぱり、先輩ってすごくあったかい)

 口いっぱいに広がるケーキの甘さよりも、先輩への気持ちのほうが、ずっと糖度が高くなっている気がする。
 そんなことを考えながらケーキを食べ進めていると、突然、美海ちゃんが椅子から立ち上がった。

 「みなさん、今日は私からお知らせがあります!」

 「え、どした? 美海」

 先輩すら何も知らされていなかったようで、驚いた顔で真っ先に声をかける。
 美海ちゃんはにっこり笑い、ポケットから茶封筒を取り出すと、中から一枚の紙を広げた。

 「私の兄、七海利久は! この度、オーディションの書類面接に合格しましたーー!」