悲しみと悔しさが混じったような笑みを向けられて、胸が締め付けられる。

 (俺、本当に最低だ)

 亜嵐は唇を強く噛みしめ、視線を落とす。
 これ以上、亜嵐を傷つけたくなかった。なのに俺は今、とどめを刺している。

 ほんの少し、もっと早く素直になれていたら。
 ほんの少し、勇気を出していたら。
 亜嵐からのメッセージに、たった一言でも返していたら。
 でも、結局全部たらればだ。過去は変えられない。

 ひとつだけ確かなのは、七海先輩がいなかったら、俺は今この場に立って亜嵐と向き合うことさえできていなかった。

 「……瑞稀に振り回されてばっかだな、俺」

 「本当に、ごめん。亜嵐」

 「いい。謝んなよ」

 はっきり言い切った亜嵐が、顔を上げる。
 涙をいっぱいに溜めた瞳が、まっすぐ俺を見つめた。

 「お前のこと、嫌いだわ。もう……顔、見たくないから」

 亜嵐の言葉が胸に突き刺さる。
 全身が震えそうなほど衝撃を受けたけれど、必死で受け止めようと自分に言い聞かせる。

 (当然だ。こんな言葉、言われても仕方ない。いくら謝っても、どうにかなる話じゃないんだ)

 「じゃあな、瑞稀」

 俺が何も言えずに黙っていると、亜嵐はくるりと踵を返す。

 声をかけたい。
 止めたいわけじゃないけど、これだけ傷つけて何か伝えなきゃと思う。
 でも……胸が苦しくて言葉が出てこない。

 (このまま黙っていたら、本当に……これで最後になるかもしれない)

 「亜嵐っ、本当に、今まで……ありがとう」

 もうこちらを振り返らない背中に向かって、声を振り絞る。
 亜嵐はほんの一瞬だけ足を止めた。でも、俺の言葉には何も返さず、再び歩き出した。
 自然と涙が溢れだす。
 夕暮れの光に消えていった亜嵐の姿は、もう見えない。
 ――大好きだった人。俺の中学時代のすべてだった人。
 でも、どれだけ好きだったとしても、亜嵐とそういう関係になる未来は想像できなかった。
 先輩への恋を叶えることができなくても……俺は、亜嵐に嘘をつきたくなかった。

(さよなら、亜嵐)

 ふたりで語り明かしたベンチに座り、俺はしばらくそこから動けなかった。