亜嵐が放った言葉に、世界の音がすうっと消えた。

 「え、今、なんて……?」

 鼓膜に響くほど、心臓が激しく脈打っている。頭が真っ白になって、足元がふらつく。
 さっきまで呆然としていたはずの亜嵐はもういない。
 そこには、まっすぐに俺を見つめる、確かな意志を宿した瞳があった。

 (どういう意味……? 〝好きだった〟って、どういう意味だよ)

 「……お前に、恋愛感情があった。ずっと。でも、怖くて……伝えられなかった」

 「う、そ……」

 口から漏れた声はひどくかすれていて、自分のものとは思えなかった。
 まるで時間が巻き戻されたみたいだ。
 こうしてまた向き合って、ふたりの時間が始まっていく。
 始まって……いけばいいのに。
 俺の時計の針は、一向に動き出す気配がない。

 (俺だけがこの想いに苦しんでたわけじゃ、なかった……?)

 驚きと戸惑いでいっぱいのまま、俺はただ、亜嵐の目を見つめ返すことしかできない。

 「一年半経っても、俺は瑞稀を忘れられなかったよ。瑞稀は……違うの?」

 亜嵐は震える声で必死に伝えてくれた。
 その言葉の端々に、必死に隠そうとしている不安と期待がにじむ。

 少し前の俺なら、何もかも投げ出してこの手を掴んでいたと思う。
 亜嵐のこの告白を、夢みたいに喜んで、笑って、奇跡だって泣いて……抱きしめていたかもしれない。

 でも、今の俺には、もうそれができなかった。

 何も言葉が出てこない。
 心は空っぽで、その隙間に静かに入り込んでいるのは、七海先輩への想いだった。
 ただ申し訳なさだけが、波のように押し寄せてくる。

 「……ごめん、亜嵐。俺は……もう、違う人を好きなんだ」
 
 胸が張り裂けそうな思いで、声を振り絞る。
 風がふたりの間を吹き抜けて、ほんの少し空気が軽くなった。
 冷たくて、でも柔らかな風が、少しでも亜嵐を優しく包んでくれたら、と願う。

 「なに、それ……」