【いつ会えるの?】

 スマホの画面に、亜嵐からのメッセージが表示される。
 俺は家に帰ってすぐ、先輩と亜嵐に謝罪の連絡を送った。
 先輩からは既読にならないけれど、亜嵐は速攻で返事をくれた。

 文字を打とうと、カーソルに指をあてる。けれど、言葉が出てこない。

 (亜嵐にも、先輩にも。本当に悪いことしちゃったな……)

 俺は自室のベッドにダイブして、顔を埋めた。

 今日、初めて先輩と外で遊んだ。
 楽しくて仕方がなくて、自分が先輩に特別な感情を抱いているって、はっきり自覚した。
 先輩も、最後まで一緒に楽しんでくれた。けれど。最後に偶然、亜嵐と再会してしまって、俺はふたりを残したまま逃げるように帰ってきた。

 原宿駅での出来事が、頭の中で何度もリフレインする。

 久しぶりに会った亜嵐に、あんな辛そうな表情をさせてしまったこと。
 そして……先輩に、彼女がいるって聞いてしまったこと。
 何も、知らなかった。
 だからあのとき、亜嵐が現れて動揺したのもあるけど、それ以上に、先輩に彼女がいるという事実の方がショックで、頭が真っ白になって、思考がぐちゃぐちゃになって、あの場から逃げてしまった。

 でも、それを先輩に言うことなんてできない。
 俺だけが好きで、先輩にとって俺は、ただの後輩のひとりにすぎないんだから。

 「はぁ、マジで最低」

 しばらくそのままうずくまっていたけれど、俺は気合を入れて、亜嵐に返信を送った。
 そして最終的に、明日、放課後。バドミントンの自主練で使っていた公園で会うことになった。

 もうこの際、全部話すつもりでいる。

 俺が亜嵐のことを恋愛対象として見ていて、告白をしようとしていたこと。
 高校受験に失敗したことで、描いていた夢が崩れて、自信がなくなったこと。
 亜嵐と離れ離れになって、毎日が苦しかったこと。
 好きな気持ちは消えていなかったのに、気持ちを伝える勇気がなくなって、どう接していいか分からなくなったこと。
 すべてが辛くて、結局は逃げてしまったこと。

 全部、全部……。

 正直、怖い。
 どんな顔をしてくるのか、何を言われるのか、想像するだけで震える。
 「気持ち悪い」とか、「顔も見たくない」とか、そう言われてもおかしくない。

 でも、どんな言葉でも、受け入れるつもりだ。
 それだけ俺は、亜嵐を傷つけた。自分の都合で、勝手に連絡を絶ってしまった罰だから。

 そうやって亜嵐のことを考えているとき、頭の片隅に、七海先輩の存在がちらついた。

 前は、亜嵐のことを考えるだけで胸がいっぱいになって、一緒にいられなかった悔しさでどうにかなりそうだった。
 でも、今は違う。

 亜嵐を思っても、もう苦しくない。
 その代わりに、先輩のことを想うと、胸がきゅっと締めつけられる。

 (俺、いつの間に亜嵐のこと吹っ切れたのかな)

 体育祭の応援団をやり切ったあの日から、俺は少しずつ前を向けるようになった。
 燃え尽き症候群も、克服できた。
 日々の生活にも前向きになれてきて、おしゃれを楽しむ気持ちの余裕も生まれた。

 そして、先輩のことが〝好き〟だって気持ちも、芽生えていた。
 きっと俺は、あの時期を乗り越えたことで、亜嵐への想いにも整理がついていたんだ。