自宅に戻って、自室のベッドに寝転がる。
 天井をぼんやりと見つめながらスマホを手に取ると、画面に通知が灯った。音羽からのメッセージだ。

 少し気持ちが落ち着いたのか、文面の後には、いつものふざけたスタンプが添えられていた。
 その軽さに、少しだけホッとする。だが同時に、どうしても引っかかる言葉が頭の中をぐるぐると回った。

 知らず知らずに、スマホを握る手に力がこもる。

 【大丈夫? さっきの男子とはちゃんと話せた?】

 そう送ると、すぐに返信が返ってきた。

 【はい。今度ちゃんと会って話すことになりました。心配かけてすみませんでした】

 その一文に、少しだけ安堵する。けれどやっぱり、もやもやは晴れない。

 【無理するなよ。ちゃんと、自分の気持ちに従ったほうがいいから】

 【はい】

 顔も見えないし、声も聞こえない。だから音羽の本心が、見えてこない。
 でもきっと、俺が今首を挟んだら、余計に音羽を困らせてしまう気がする。あいつの心の負担をこれ以上増やしたくない。今日は、はたから見たら修羅場としか言えなかった。とりあえず、明るいスタンプを送って、スマホを閉じる。

 「あーー……なんだよ、これ……」

 ベッドに沈み込みながら、唇を噛みしめる。
 脳裏に浮かぶのは、亜嵐君がアイツの名前を呼んだときの、切羽詰まった顔。
 そして、亜嵐君をまっすぐ見つめる音羽の横顔。
 瑞稀なんて、音羽が呼ばれているのを見たことがないし、俺だって一度も呼んだことがない。
 亜嵐君は、自然に呼んでいた。
 別に、男友達の名前なんか好きに呼べばいいと分かってる。でも、俺は下の名前で呼ぶのはためらわれた分、あんなふうに簡単に呼んでいる姿を見てなんだか悔しかった。

 『先輩は関係ないから、巻き込まないでほしい』

 音羽の一言が、ずっと胸の奥に刺さってる。
 言葉の意味は分かる。音羽は亜嵐君との問題に俺を巻き込みたくないから、気遣ってくれたんだろう。
 でも、〝関係ない人間〟として線引きされたみたいでショックだった。
 勝手に、音羽の一番の友人は俺だと思ってたから、なのか。
 いや、違う。もう今日、はっきり自覚してた。あいつに対して、俺がどんな感情を抱いているか。
 こんな気持ち、男に対して初めてだ。
 出来るならば、気づきたくなかった。

 「……好き、だ」

 音羽の存在が好き。
 音羽が傍にいるだけで、俺は楽しいし、嬉しい。
 だから、音羽が亜嵐君と俺よりも親しくしていたことが悔しい。
 悔しいって、独占欲ってやつか? こんな苦しい感情は知らなかった。

 「俺、あいつのこと、好きだ」