*七海side

 「亜嵐……」
 「ずっと話したかったんだ、瑞稀。ちゃんと向き合ってくれるよね?」

 音羽と初めて学校の外で会った日、俺たちは突然、知らない男子に声をかけられた。
 彼は音羽の知り合いのようで、音羽も彼のことを「亜嵐」と呼んでいた。
 でも、その再会はただの偶然じゃなかった。二人の間に流れる空気は、明らかに普通じゃない。緊張と苛立ちが混ざり合っている。
 俺はとりあえず黙って見守ることにした。今、口を出すべきじゃない……そう直感したからだ。

 「ご、ごめん……。本当に、ひどいことしたと思ってる」

 「……だよな? 俺がどれだけショックだったか分かってる? 親友だと思ってたのに、いきなり裏切られた気分だった」

 亜嵐くんの怒りは真っ直ぐで、その分だけ重く響く。
 音羽は目を伏せ、深々と頭を下げた。隣から見る彼の横顔は、心から申し訳なさそうだった。

 二人の様子から察するに、かなり親しい関係だったんだろう。
 そして、音羽に何かしらの非があって、関係が壊れてしまったらしい。

 高校生にもなれば、友達とのすれ違いやケンカは誰にでもある。俺にも思い当たることがある。
 でも、普段は穏やかで人を傷つけるようなことをしない音羽が、何をしてしまったのかが、気になった。

 「……うん、ごめん。俺も、亜嵐のこと親友だと思ってた。だからこそ、ずっと後悔してた。悪いことしたって」

 「じゃあ、なんで一度も連絡くれないの? 何度も送ったのに、全部無視してんだろ!」

 亜嵐の声はだんだん大きくなっていく。
 ここは駅前、人通りも多い。周りの視線が、どんどん俺たちに集まっているのがわかった。

 「……あの、悪いけど。一度、場所を移した方がいいと思う。人も多いし、話すならもう少し静かなところで」

 ふたりの空気を壊すようで申し訳なかったけど、これ以上、音羽が晒し者になるのは避けたかった。
 俺の言葉に、ようやく二人もまわりの視線に気づいたのか、小さく頷いた。

 だけど、次の瞬間。

 「亜嵐、いたーーーっ!」