「うーん、んまい。やっぱイチゴ最高……!」

 先輩はスプーンでたっぷりとすくったホイップを、迷いもなくぱくりと口に運んだ。
 満足そうに目を細めて、口の端まで幸せがにじみ出てる。

 その顔があまりにも嬉しそうで、つられて俺までふはっと笑ってしまった。

 「先輩がそんなに甘党だったなんて、初耳です」
 「うん、甘いもの大好き。洋菓子も和菓子も、何でもいける!」

 半分ほど飲んで、少し甘さに飽きてきた俺は、自分のフラッペを先輩に差し出した。
 すると、先輩は一瞬で目を輝かせて、「まじ? 神」と言いながら、さっそくストローを差して豪快に吸い込む。

 「うっわ、これ……無限に飲めるな、危険だわ」
 「いくらダンスでカロリー消費してても、そんなに甘いのばっかり食べてたら……太りますよ?」
 「だーいじょーぶ。今日はチートデイってことで、許してよ」

 口元にクリームをつけたまま言う先輩を見て、思わず笑ってしまった。
 俺は紙ナプキンでそっと拭ってあげる。先輩は「あ、ありがと」とつぶやいて、照れくさそうに唇をすぼめた。

 その仕草が妙に可愛くて、胸の奥がじわりと熱くなる。

 (今日は、本当にいろんな先輩を見てる)

 友達と楽しそうに話す先輩、過去を振り返って切なそうに笑う先輩、甘いものを頬張ってはしゃぐ先輩。
 こんなふうに、色んな表情を見せてくれるのが嬉しかった。
 もっと知りたい、もっと近づきたい。そんな気持ちが胸の中で膨らんでいく。

 (俺、先輩のこと好きだわ)

 ずっと曖昧な感情に名前を付けたくなかったけれど、先輩を眺めていたら感情が抑えられなくなる。
 
 楽しくて、切なくて、でも……ずっとこうやって一緒に居たいと思う。

 コーヒーショップを出て、俺たちは表参道の街をゆっくり歩いた。
 風は少し冷たかったけれど、それが火照った顔に逆に気持ちいい。先輩と一緒にいると、不思議とどこを歩いても、特別な場所みたいに思える。

 その後、アクセサリーショップでお揃いのイヤーカフを見つけて、こっそり色違いを買ったり……。
 スニーカーショップで、どっちが自分に似合うか、真剣に相談したり。
 最後には、ノリで入ったプリクラ機の中で、先輩が変顔をしてきて、思いっきり笑ってしまった。

 気づけば、最初に感じていた緊張や遠慮は、もうほとんど消えていた。
 もしかしたら、先輩が自分の過去を真っ直ぐに話してくれたから、俺も肩の力が抜けたのかもしれない。
 ただ〝仲良しの友達〟ってだけじゃなくて、もっと近い友人になれた気がした。

 「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしてます」

 店のスタッフの明るい声に見送られながら、俺たちは小さな雑貨屋を後にした。
 
 「妹さん、喜んでくれるといいですね」