先輩の視線がまっすぐ俺に注がれていて、それが眩しくて、俺はつい目を逸らしてしまった。
 少しだけ視線を斜めに下げる。心が、じんわり熱い。

 「先輩って、いつも優しくて、完璧で……でも、俺にはもっと、弱いところも見せてほしいです。気なんか、遣わないでください」

 震えるような気持ちを押し込めながら、なんとか最後まで言い切ると、胸の奥で鼓動がどくんどくんと暴れ出した。

 (やば……調子乗ったかもしれない)

 不安でたまらなくなっていると、ふいに、大きな掌が俺の頭に乗った。

 「ん、ありがと……でも、お前は十分、今まで俺の力になってるよ」

 「へ?」

 驚いて顔を上げると、先輩はやわらかく笑って、俺の頭をぽんぽん、と優しく撫でてくる。
 その手が温かくて、なんだか安心した。

 「体育祭で頼ってくれたときも、俺に青春っぽいことさせてくれたのも、今もさ……めちゃくちゃ感謝してるから。お前といると楽しいよ、ほんとに」

 「……っ」

 思ってもみない誉め言葉を次々と投げかけられて、驚いたのと同時に、じわっと胸が熱くなった。
 自分はしてもらってばかりだと思っていたのに、先輩が力になってると思ってくれたのも嬉しいし、一番に一緒にいて〝楽しい〟っていうのが、胸に響いた。

 と丁度のタイミングで、先輩のスマホがブーブーと音を立てて、震え出す。

 「あ、フラペチーノ出来てるって。取りに行こ!」

 「えっ、あぁ、はい……!」

 まだ気持ちが追いつかないまま、先輩の背中を追いかけて歩き出す。
 その背中がさっきよりも少しだけ近く感じたのは、気のせいかな。