「わ、超いい。似合ってる」
 「やっぱな。俺の見立て通りや」

 先輩は俺を見ながら目を輝かせている。表情から心から褒めてくれていると伝わってきて、自然と笑みがこぼれた。
 俺が今着ているのは、腰骨が隠れるぐらいの丈の白のポロニットに、センタープレスが入ったグレーのイージーパンツ。
 淡い色を合わせる着こなしは勇気がなくて挑戦したことがなかったけれど、意外と色白の顔に馴染んでいるように見えて、大人っぽく洗礼された雰囲気になった。

 早速購入を決め、みっちさんに値札を切ってもらって、俺は着たまま遊ぶことに決めた。

 「じゃ、みっち。また来るね」
 「ほなな。音羽君もまた遊びに来てな―」

 俺たちが店を出る直前、みっちさんが「あ!」と声を上げる。

 「そういや、つい先週のことやけど。美緒、ここにきたで」

 みっちさんの言葉に、先輩はピタッと足を止めた。
 少し驚いて横を見ると、先輩は硬い表情で一点を見つめている。

 「そうなんだ。元気そうだった?」

 みっちさんを見た先輩の声は、笑っていた。でも、目が笑っていなかった。
 その違和感に気づいたのは、たぶん俺だけじゃなかったはずだ。

 「うーん、ちょっと疲れた顔はしとったけど……顔色は悪くなかったよ。利久に会いたい、言うてたわ」
 「へえ……そっか」

 やっぱり、先輩の声はどこか遠くにあった。
 表情だけ取り繕ったような笑顔が、かえって痛々しくて。

 (どうしてだろう。さっきまであんなに楽しそうだったのに)

 きっと、この〝美緒〟って人は、先輩にとって特別なんだ。
 でも、触れられたくない人なんだろうなと直感で思う。

 「あの、みっちさん。本当にすみません。行きたい店があるんで、俺たち、そろそろ」

 気づいたら、勝手に口が動いてた。先輩は驚いた顔で俺を見る。

 「おっと、引き留めてしもたな。ごめんごめん。また寄ってやー」

 みっちさんの明るい声に背中を押されるように、俺たちは店を後にした。

 ごった返した人の流れに紛れるけれど、俺たちは馴染めない。なんだか、取り残されてる感じ。
 先輩の歩幅に合わせて歩きながら、さっきの表情がどうしても頭から離れない。
 それに、先輩になんて声をかけたらいいのかも分からない。

 「音羽、ありがと」