先輩は進学の話を自分からはあまりしない。
 もしかしたら、ダンスの道を選ぶんじゃないかと俺は思っているけれど。

 「久しぶり!みっち!」
 「利久、来るなら言うてや!」

 先輩のお気に入りのセレクトショップに着くと、金髪坊主で塩顔のイケメン店員さんが、先輩に笑顔で話しかけていた。
 店の雰囲気も店員さんもおしゃれすぎて、少し緊張してしまう。
 そんな俺に気づいたのか、先輩が耳元で「大丈夫」と囁いた。
 先輩の声が低く甘く、こんな状況なのにドキッと心臓が跳ねる。

 「今日はインスタグラマーのみっちに友達のコーデお願いしようと思ってさ。こいつが音羽君」

 「なんやねん、それ。音羽君。任せろ」

 みっちさんはニコっと笑い、グーサインを送ってくれた。
 ふたりの優しさに、ようやくほっとできた。
 類は友を呼ぶってこういうことか。みっちさんも先輩と同じで、明るくて優しい人だ。

 みっちさんは俺を試着室に案内し、いきなりTシャツをめくって、頭から足元までじっと見つめる。

 「君は骨格ストレートやな。童顔だけど、上半身が意外としっかりしてるやろ? ダボっとした服は絶対似合わん」

 「え、そうなんですか?」

 みっちさんはそう言って、店に並んでいた服を何着か持ってきてくれた。
 今着ているダボっとしたカーディガンと正反対のものばかり。
 骨格ストレート……意味は全然分からないけれど、なんとなく自分のことをちゃんと見てくれている気がした。

 「はよ脱げ。これとこれとこれ、どんどん着てみ」

 「は、はい……」

 みっちさんは洋服を渡すと、すっと試着室のカーテンを閉めた。

 「音羽、俺は店回ってるから、着替えたら呼んでね」

 「了解です」

 カーテン越しに先輩の軽やかな声が聞こえる。
 どうやら俺の着替え姿を楽しみにしているらしい。
 その声に、胸の奥がほんのり温かくなる。体育祭をきっかけに、俺は先輩に対して色んな感情を抱くようになった。
 どうしてこんな風に思うのかなんて、なんとなく察してるけれど、今は名前を付けたくない。

 (みっちさん、すごいな。俺の体のことをすぐに見抜いて……)

 渡されたトップスに着替えながら、つい感心してしまう。
 俺は本当に上半身に筋肉がつきやすい体質で、今もバド部の名残で腹筋が少し割れている。
 昔から動きやすさ重視で、上も下もだぼっとした服ばかり好んで着ていた。

 でも、みっちさんが選んでくれた服は、体のラインがすっきり見えるシンプルなデザインばかり。
 試着室の鏡に立ってみると、なんだか身長まで高く見える気がした。

 「そろそろ、着替えた?」
 「は、はい……一応……」

 カーテンの向こうから、先輩の視線を感じる。
 どんな反応が返ってくるのか、ちょっと怖くなりながらも思い切ってカーテンを開けた。