体育祭も無事に終わり、季節は十一月の初め。
 俺はジーパンにTシャツ、その上から指先が隠れる、だぼっとしたカーディガンを羽織って、原宿駅の前に突っ立っていた。

 「うぉ……」

 改札口から人がどっと溢れ出てきて、人の波に飲まれそうになる。
 原宿駅なんて、小学校高学年の頃、姉にオタ活に付き合わされたとき以来だ。

 (はぁ、マジでミスった。もっとギリギリに家出ればよかった)

 先輩との待ち合わせまで、まだ十分ある。
 きっかけは、先輩となんてことないLINEをしてたときに、「冬服が全然ない」って俺がこぼしたのがはじまり。
 そしたら、「よかったら一緒に買いに行く?」って誘ってくれて。その流れで今日に至る。

 七海先輩は、普段から身だしなみに気を使ってるし、私服もおしゃれそうだし、服を選んでもらえるのは素直に嬉しい。
 でも、正直ちょっと緊張する。
 学校以外で、しかも丸一日一緒にいるのは初めてだし。退屈させたらどうしようって、そればっか気になってしまう。

 共通の話題も、応援団くらいしか思いつかない。第一、今はもう終わってるしな。

 ちらっとスマホのカメラで前髪をチェックする。
 応援団が終わったあと、俺はすぐ髪を切った。伸びっぱなしでボサボサだったのが、どうしても気になって仕方なかったから。
 たぶん先輩が体育祭で教えてくれたおしゃれの楽しさが、俺の中でも少しずつ響いてきてるのかもしれない。
 だから一応、今日は俺なりの一張羅でここに来たつもりだ。

 「音羽、早いね」

 「っ! 先輩……おはようございます」

 人の流れからワンテンポ遅れて、先輩がふいに現れた。
 その一瞬で、鼓動が一気に跳ね上がる。心の準備、まだ全然できてなかった。

 会うのは体育祭ぶり。けど、目の前の先輩は、あのときの先輩とはまるで違って見えた。

 サングラスにキャップ、黒のブルゾンジャケットにスキニーっぽいパンツ。
 脚が長くて、シルエットがやたらキマってる。モデルでもやってんのか?ってレベルで、まじでオーラがすごい。

 決して派手な服装じゃないのに、シンプルな分、先輩自身の魅力がむき出しになっている感じ。

 「俺の好きなセレクトショップが、表参道までの道にあるから。とりあえず行ってみよー」

 「了解です!」

 服装に気圧されてちょっとビビったけど、声を聞いたら、やっぱりいつもの七海先輩だった。
 少しだけ安心して、先輩と並んで歩き出す。

 頭一つ分くらい背の高い先輩を見上げながら、なんとなく近況を話し始めた。

 「最近、学校どう?」
 「えーっと……進路希望のシートとか配られて、若干鬱になってます」
 「そうか、もうそういう時期か」

 ぽつりと先輩が呟いたその言葉に、少し切なさのようなものが混じっていた気がしたけれど、気のせいだろうか。
 俺はというと、進路なんてまったく考えられてなくて。
 このままだと、成績に見合った大学に、なんとなく進むだけになる気がしてる。
 そんな曖昧な話をしながら、ふと思った。

 (そういえば、先輩って卒業したらどうするんだろ)

 でも、その疑問を口にする前に話題が変わってしまって、聞けずじまいになった。