応援団で最終確認を済ませた後、ついに体育祭本番が始まった。
 普段とは違う姿でクラスメイトの輪の中に入るのは少し落ち着かなかったけれど、意外にもみんな褒めてくれて、自然と輪に馴染めた。

 騎馬戦、玉入れ、綱引き……次々と種目をこなし、体育祭の前半はあっという間に終了。
 けれど、あと三種目くらい過ぎたら応援団の演技だ。本番が近づくにつれ、胸がギリギリと締めつけられるように痛くなる。

 「はぁ……音ちゃんって、ちゃんとすればイケメンなんだね」
 「うるさいよ、沢っち」

 右隣に座っていた沢っちが、じろじろとこちらを観察してきた。
 (イケメンなんかじゃないよ……七海先輩に比べたら、足元にも及ばない)

 今日の先輩は、特に輝いていた。
 ふと三年生の集まる方を見やると、先輩の周囲にはひときわ大きな人だかりができていた。ツーショットを撮るための列までできていて、改めて先輩の人気を思い知る。

 そんなすごい人とお揃いの星のシールをつけている自分。
 先輩のファンの女の子たちには申し訳ない気がするけれど、正直少しだけ、優越感もあった。

 「あ、次は三年生のリレーみたいだな」

 左隣の北野の声に顔を上げると、ちょうど三年生たちがグラウンドに入場するところだった。
 さすが最上級生というべきか、どの先輩も大人びていて、垢抜けて見える。
 その中に、一際目を引く存在がいた。七海先輩だと気づいた瞬間、心臓がドクンと跳ね上がる。

 「お、音ちゃんの彼氏の七海先輩じゃん」
 「はッ? バカなこと言うなよ」

 茶化してにやける沢っちの肩を、ぺしんと軽く叩く。
 沢っちがそんなことを言い出した理由は、だいたい察しがついた。

 俺が七海先輩にみっちりダンスを教わっているのも知っているし、以前、校内で先輩と二人乗りしていたのが、ちょっとした噂になったこともあった。
 噂の相手が誰かまでは特定されていないようだけれど、沢っちと北野にはバレていたらしい。俺が誰にダンスを教わっているか、知っていたからだろう。

 二人には念のため口止めしておいた。
 七海先輩はみんなに人気だから、もし俺と仲が良いと知られたら、変なことを言われてしまうかもしれない。そんなのは嫌だった。

 (先輩、リレー出るんだ。頑張ってほしいな)