曲が終わり、動きをピタリ、と止める。
 ミスなく踊り切った。
 少しの不安は踊る前にはあったのだけれど、今は爽快感だけが体に残ってる。
 息を上げたまま体の力を抜いて先輩を見たそのとき。
 軽い衝撃が体に伝わり、俺はバランスを崩す。けどすぐに、逞しい腕に抱かれて、しっかりと先輩の懐の中で固定された。

 「すげぇ、音羽。本当に頑張ったな」
 「せ、先輩……?」

 はて、何事だろう。
 俺はまた、先輩に抱きしめられている。先輩のいい匂いが充満していて、やっぱりこの香り好きだなってしみじみ思ったりして。
 運動が終わった直後の動機とは別に、今きっとドキドキしてる。

 先輩の体が離れていく。覗き込んできた先輩の目は熱を持ったまま揺れていて、俺に対して感動してくれてるように見える。

 「今みたいに自信を持って踊って。俺から言えるのは、それだけだから。それくらい、めちゃくちゃよかった」
 「……っ、あ、ありがとうございます」

 そのまっすぐすぎる誉め言葉が、張りつめていたものを一気に切ってしまった。
 胸の奥がぐらぐらと揺れて、目頭が熱くなる。

 (泣きそうだ。男らしくないって、思われるかもだけど)

 でも、それくらい嬉しかった。
 ここまで頑張ってきてよかったって、心から思えた。
 そして何より、先輩に成長した自分を見せられたことが、誇らしかった。

 あんなに辛かった燃え尽きも、もうすっかり抜けつつあるんじゃないかな。

(やっぱ、絶対に感謝を伝えたい!)

 ふうっと大きく息を吐き、心を落ち着かせる。
 ゆっくり顔を上げると、そこには静かに俺を見つめる先輩の姿があった。

 「先輩。昨日言ってた例のやつなんですけど。俺、先輩と一緒にやってみたいことがあるんです」